2023年7月7日金曜日

第3313話 タイのレディーと 歩く鎌倉 (その2)

大仏さまの周りを
ハンケチ落としの鬼のように
グルリと一めぐりし、おそばを離れた。
折よく鎌倉駅行きのバスが来たので乗り込む。

夕闇迫る小町通りをそぞろ歩く。
この時間ともなると昼間の喧騒はどこへやら
小町は落ち着きを取り戻していた。

小林秀雄&小津安二郎ご用達、
天ぷら「ひろみ」の階下に差し掛かり、
「あとで晩めしは此処にしよう」
「うん、いいわ」

鶴岡八幡宮のだいぶ手前でUターン。
通りを戻るとアンナが立ち止まった。
店頭の写真メニューに見入っている。
「魚かま 小町通2号店」は
しらす丼と海鮮丼の専門店。
まず自分では入らないタイプだ。

「これ食べたいな」
「おい、天ぷらどうすんだ?」
「ダメ?」
「いや、ダメじゃないけど・・・
 しょうがねェなァ」

久々に両巨匠のよすがを偲ぶつもりが
翠富士並みの肩透かしを食らい、
哀れJ.C.、黒房下に転落の巻。
外国産の生き物のわがままには従うほかはない。

釜揚げしらす・生しらす・甘海老・真鯛・
まぐろなどが盛り込まれた丼を取ってやり、
気落ちして食欲を失くしたオッサンは
しらす&わさび菜の小鉢だけ。

鎌倉はキリンの縄張りなのに
当店は珍しくもスーパードライ。
たちまち生気を取り戻したJ.C.3杯、
アンナ2杯、存分に味わった。

娘のニタと渋谷で落ち合うと言う母とは
横浜駅で別れた。
事前の電話でニタから
「ちゃんと東横線まで送って上げて」

頼まれた通りにしたが
改札の手前から見上げた奥の電光掲示板。
「あの電車に乗るのネ?」
「ああ、うん」
よく見えないので生返事。
ハグして手を振った。

駅そばの名もない酒場で飲んでいると
アンナからのメールが着信。 
(You made a misutake.
   The train for Kikuna.)
あちゃ~、やっちまったかァ。
まっ、外国人のやることだ。
しっかたなかんべサ。

「魚かま 小町通2号店」
 神奈川県鎌倉市小町2-8-4 2F
 0467-50-0022