2023年7月3日月曜日

第3309話 チリ・クラブを食ったんだガニ(その1)

JR田町駅でS田サンと落合い、
短い距離を歩いていった。
グランパークなるビルの1階。
翠に包まれて「威南記「はあった。
南国シンガポールをイメージしている。
  
テラスとホール、いずれかを選択。
相方の要望はテラスであった。
タイガー・ビヤーで乾杯。

近況を報告し合っていると、
左ひじ辺りが痒い。
右足のくるぶしも痒くなってきた。
やぶ蚊に食われたのだ。
相方もやられていた。

女性の接客係に伝えると
隣りのテーブルの足元から
蚊取り線香を引きずり出して着火。
おい、おい、客を入れる前に着けとけヨ。
遅ればせながら防虫スプレーも。

「歳のせいか、虫に刺されると
 あとがなかなか消えなくてー」
「ああ、モスキート・バイトね」
「何ですか、それ?」

「蚊の食われ跡のこと。
 隠語じゃ首筋に付けられたキスマーク」
「エエ~ッ! そうなんですか?」
「お望みならば、あとで付けてあげましょうか?」
「いいえ、けっこうですっ!」

口ぶりはキッパリなれど、
目元が涼やかに笑みをたたえている。
こりゃ、時間の問題だな。
エッ? 何がだ! ってか?
いえ、こちらの話です。

それはそれとして注文、注文。
協議の結果、あれこれ頼まずに
主役級をハナからズドンといくことにした。

シンガポーリアン・チャイニーズの花形、
チリ・クラブだ。
揚げマントウも忘れずにネ。
本場では常にぶつ切りの食パンだったが
さすがにそれでは
体裁が悪いと考えたのだろう。

「チリ・クラブでございます」
運んでくれた接客係に
「この蟹は何という蟹?」ー訊ねると
「確認してまいります」ー戻って行った」

=つづく=