2014年5月20日火曜日

第841話 成瀬と秀子の秀作 (その1)

観る機会に恵まれない古い映画や
DVD化されていない作品を放映してくれるひかりTV。
放送時間の偏向性には閉口するものの、
恩恵を受けている視聴者も少なくないだろう。

前話で紹介した「有楽町で逢いましょう」の数日後。
成瀬巳喜男がメガフォンをとり、
高峰秀子を主演にすえた「乱れる」を観た。
実はこの映画、成瀬のマイベストであり、
同時に秀子のベストワンでもあるのだ。
それではのっけから二人のベストスリーと参りましょうか。

★成瀬巳喜男
 ① 乱れる
 ② 流れる
 ③ 乱れ雲
 次点: 浮雲

★高峰秀子
 ① 乱れる
 ② 二十四の瞳
 ③ 女が階段を上るとき
 次点: 華岡青洲の妻

てなわけで、「乱れる」は大好きな映画。
ここで少々、上記作品群の解説をさせていただこう。

②「流れる」の舞台は江戸以来の花街・柳橋。
山田五十鈴を筆頭に、田中絹代、杉村春子、
岡田茉莉子、栗島すみ子、女優陣が咲き乱れる群像劇だ。
もちろん高峰秀子もその一翼を担っている。

③「乱れ雲」はタイトルからして「乱れる」にそっくり。
ストーリーも瓜二つで、ヒロインこそ司葉子に代わっているが
相手役はともに若かりし加山雄三。
「乱れる」がオリジナルで「乱れ雲」は焼き直しの感あるものの、
加山にはピッタリのハマリ役だ。
”若大将シリーズ”とは異なる彼の魅力を
成瀬監督がじっくりとあぶり出している。

次点の「浮雲」は評論家の評価が高い一本。
監督・成瀬、女優・高峰の作品群にあって
最高傑作の呼び声すら上がる。
だのに、なぜか肌が合わない。
相手役の森雅之が苦手だからだろうか?
とにかく心の底で拒否反応を示す何かが点滅する。

「乱れる」に続く、秀子の②「二十四の瞳」については
あえて述べることもなかろう。
今も昔も大石先生を演ずるにあたり、
高峰秀子以上の適役はおりません。

③は仲代達矢&団令子、④は市川雷蔵&若尾文子。
男・女優ともに名立たる役者を従え、
大御所の風格すら漂わせている。

=つづく=