2014年5月28日水曜日

第847話 上野着午前1時 (その2)

上野アメ横そばの「一力」に独り。
時刻は1時半にならんとしている。
それにしても「一力」とは大きく出たもんだ。
京都は祇園、かの大石内蔵助が遊んだ料亭の名を
そのまま借り受けている。

酔いつぶれ客のいるカウンターで注文したのは蛍いか刺し。
沖漬けもあったが、刺し身があるならこちらでしょうヨ。
目黒区・不動前の桜の名所、かむろ坂下の赤提灯、
「太田屋」のオヤジさんに聞いたところによると、
蛍刺しはハシリの時期に限られるそうだ。
まだ深海に生息しているうちは寄生虫がつかないが
旬を迎えるにつれ、浅い水域に移動してくるとヤバいらしい。

さすればなおさらのこと、いただかなけりゃネ。
ところが、とかくこの世はままならぬ。
この蛍が大ハズレ、ほとんどOBの三度笠ときたもんだ。
さすがにイタんじゃいないが
ちょいとイヤな匂いが立ってギリギリの線。
6~7尾もあったのに2尾で箸を置いてしまった。
やれやれ。

黒ラベルの大瓶に切り替え、もつ焼きを所望する。
レバとシロをタレでやったが、これもあまりよくない。
向かいの「大統領」のソレに及ばない。
もともとノガミの焼きとんのレベルはそれほど高いものではない。
ちょいとばかり、不完全燃焼を引きずった。

夜も更けたこと、というより下手を打つと夜が明けてしまう。
そろそろ帰るとするかの。
瓶の底に残ったビールをグラスに注いだときだった。
常連と思しき客が現れて隣りに座った。    
何とサンダル履きじゃないか・・・。

一見、アラフォーの御仁がフロアの小妓に告げた。
「取りあえず生ビール持って来て、泡ナシ!」
「エッ、泡ナ~シ?」
「そう、そう、泡要らないのっ!」

小妓は首をひねりながらも
ビール・ディスペンサーの前に進み、生を搾り始めた。
あらら、ホントに泡ナシでキッチリ注いだぜ。
ふ~ん、世の中に泡嫌いはほかにもいるんだ。

蛍いかはダメ、焼きとんも不満足。
食いモンには期待できないから
ここで生ビールを追加する。
もちろん、お隣りさんに倣って”泡ナ~シ!”でネ。
時計の針は午前2時をとっくに回っていた。