2022年7月15日金曜日

第3059話 88年 キラキラひとすじ (その2)

下町人情キラキラ通りの「五福家」。
具服屋みたいな名前のそば屋にいる。
店内の様子や調度が歳月を物語る。

そばの品揃えはしっかりしており、
中華モノも数点、チャンポンまであった。
日本そば屋の中華そばは当たりが多く、好きだ。

たこブツ、さば味噌煮、イカ焼き、浜松ぎょうざ、
つまみはほとんど350円と安価。
冷奴の350円は割高だが
それでも居酒屋プライスとしてはフツー。

ラーメン着卓。
厚めの肩ロースチャーシュー1枚。
シナチク、ナルト、ほうれん草。
ポパイじゃないけど、ほうれん草がいいなァ。
昭和の支那そばはこうでなくっちゃ。
これが小松菜ではちょっとガッカリ。
ワカメになったら大きく落胆。

スープどころか麺もいい感じ。
相当にレベルの高いラーメンだった。
帰り際、亭主は店先でフライを買う、
近所のオバさんを接客中。
背後から
「ホントにスープがうまかった」ー声掛けしたら
振り向いてうなづきニッコリ笑った。

日本そば屋で日本そばを食べないのはなァ。
気になって二日後に再訪。
引き戸を引いたら、うわっ!
満卓どころかほぼ満席。
喫煙者が多いから煙モクモクと来たもんだ。

近所の町内会みたいでグループの貸し切り状態。
店主も仲間に入って打ち解けていたが
席を立ってその席に促された。
この人はいつもJ.C.のために席を温めてくれている。

昭和そのもののもりそばだった。
甘みの勝ったつゆにやや太めのそば。
そばがあまり旨くないところまで昭和そのもの。
当店は日本そばより中華そばがオススメだネ。
でも、ちゃんとそば湯を湯桶で出してくれた。

会計時、亭主に訊ねる。
「お店はもう長いんでしょう?」
「昭和10年だからあしかけ88年」
「親父さんは何代目?」
「二代目です」
息子の三代目が出前から戻って来た。

スゴいねェ、昭和10年生まれとなると
大江健三郎に芦川いづみ。
海外ならエルヴィス・プレスリーにアラン・ドロン。

その時、東京では高田浩吉の「大江戸出世小唄」、 
NYにはガーシュインの「サマータイム」が
海を隔てて流れていたハズである。
両国が戦火を交える前の平和な時代、今いずこ。

「五福家」
 東京都墨田区京島3-52-1
 03-3611-3698