今月の神保町シアターの出し物は
映画監督・五所平之助特集で
この日は昭和12(1937)年の「花籠の歌」。
銀座のとんかつ屋「ミナトヤ」を舞台に
看板娘が田中絹代、その妹に高峰秀子。
オールド・ファン垂涎のコンビである。
往時の銀座の光景にJ.C.の目は釘付け。
見逃してはならじと、
つぶらな瞳を 見開きっ放しだった。
昼下がりの外濠は数寄屋橋。
と一度は思ったが、これは三十間堀川のようだ。
さすれば、架かる橋は三原橋だろうかー。
北に向かって豊玉橋、朝日橋など、
今は失われた姿を目に焼き付けていた。
「ミナトヤ」の2階から見える銀座のネオンが
懐旧の思いをかき立てる。
明治チョコレート、クラブ白花、
モンマルトルのムーラン・ルージュみたいな風車。
J.C.の生まれるずっと前だから
見たことなど一度もないのにネ。
店内の貼り紙にも瞠目した。
=本日のスペッシャル=
満洲汁 ヒレかつ メンチフライ
殊に満洲汁が気になって、気になって
映画に集中できなくなる始末。
これはたぶん豚汁なんだろうな。
メンチカツではなく、メンチフライ。
以前はこう呼んだんでしょうヨ。
看板娘は田中絹代だが店の味を支えているのは
上海生まれの料理人・李さんこと徳大寺伸。
佐野周二、笠智衆も印象深いが
徳大寺は二人を凌駕して余りある。
徳大寺というと、上野アメ横にある、
日蓮宗の寺院を想起するが何の関係もない。
晩年、糖尿病による視力の劣化で
俳優業に見切りをつけた徳大寺伸は
タレント養成所を設立して浅野温子、
久保田早紀などの才能を世に送り出している。
洋子(田中絹代)に失恋して
上海に帰る李さんだが
その李さんに想いを寄せる女給、
おてる(出雲八重子)が、またけなげだ。
いずれにしろ、2.26事件の翌年の銀座を
存分に楽しませてくれる、
貴重な映像がそこにありました。