2021年2月5日金曜日

第2584話 熱燗の ガラスの向こう みぞれ舞い (その1)

朝から雨が降り続き、

山下達郎の「クリスマス・イヴ」よろしく

夜更けには雪に変わると予測された荒天の日。

外出を渋っていたものの、午後になって無謀にも出かけた。

ゆく宛てすらなく―。

 

メトロ千代田線・向ヶ丘遊園行きに揺られながら

外を歩き回るのはイヤだな・・・

地下鉄とつながってるとこが理想だな・・・

な~んて思いつつ、

日比谷下車なら改札からミッドタウンまでたった15秒。

大手町だと少々歩くが地下直結で

丸ビルやKITTE、八重洲地下街へ移動が可能だ。

 

ところが降りたのは新御茶ノ水。

地下を400m進み、淡路町交差点のA3出口を上がった。

天候が天候だけに熱燗が欲しい。

傘をさして徒歩1分、日本そば「神田まつや」に到着。

 

「まつや」といえば去年の1月、

新中野は鍋屋横丁の「まつや分店」を訪れ、

熱いかき南蛮とミニづけ丼を本わさびでいただいた。

あの日も雨だったなァ。

 

本家「まつや」が暖簾を掲げる、

界隈の地番は神田須田町、旧連雀町である。

関東大震災後に建造された瓦葺(かわらぶき)は

幸いにも戦災を免れ、現在も威容を誇っている。

こんなそば屋はそうそうない。

 

此の町にたびたび出没した池波正太郎翁は

とりわけ「まつや」の酒&そばを好んだ。

そば屋飲みをこよなく愛した翁のたまわく、

「酒を飲まぬくらいなら、そば屋には入らぬ」

まさしくおっしゃる通り。

及ばずながらこのJ.C.、

師の教えをかたくななまでに守り続けておりまする。

 

時刻は15時過ぎ。

昼めしどきなら列の絶えない人気店もさすがに空席が目立つ。

換気のため、出口のガラス戸が半開き。

その付近は寒風が入り込むので、ちょいと奥めに着卓した。

 

熱燗を欲しての来店だったが

ルーティン通りにドライの大瓶を―。

これなくしてJ.C.の夜は始まらない。

いや、最近は昼すら始まらない。

いえ、いえ、早いハナシ、朝が終わらないのだ。

 

でもネ、コロ助野郎が退散したあかつきには

晩酌タイムをキチンと定めて、それを守ろう。

人倫の道を正しく歩むことを心がけよう。

はたして、できるかな?

 

=つづく=