ウイーンを舞台にした映画となると
中高年なら誰しもが真っ先に思いつくのは
キャロル・リード監督の「第三の男」。
あとは「アマデウス」、「うたかたの恋」あたりか―。
「男はつらいよ
寅次郎心の旅路」なんて変化球もあるネ。
B・ランカスターとA・ドロンが
「山猫」以来の共演を果たした「スコルピオ」は記憶に残る。
1973年、ケニアのナイロビで観たという特殊性が
印象深さに拍車をかけるらしい。
この日択んだのはイタリアの女流監督、
リリアーナ・カヴァーニによる、
「愛の嵐」(原題:Il
Portiere di Notte.英題:The Night Porter)。
「山猫」のルキノ・ヴィスコンティが
高く評価した1974年の作品は
ダーク・ボガードのマックス、
シャーロット・ランプリングのルチアが主役。
J.C.はこのイギリス女優が好き。
つい、最近もP・ニューマン主演の「評決」に
出ているのを知って観たばかり。
ベルリン五輪の4×400mリレーの金メダリストを父に持つ、
彼女の魅力は何といっても神秘に満ちた双眸(そうぼう)。
イタリアのS・サンドレッリとC・カルディナーレの大ファンだが
彼女たちの瞳が秘めるのは情熱、対してシャーロットのは冷徹。
いきなり桑田佳祐の歌声が聴こえてきた。
♪ 星降る夜のHARLOT ネオンにじむ部屋
I love you baby, holding me tight
anyway
憎いピンハネ野郎 ウロつき回るよ
いつも目を血まなこにして
小粋なドレスも着てみたい ♪
「星降る夜のHARLOT」は1983年リリースのアルバム、
「綺麗(きれい)」に収録された楽曲。
ハーロットは英語で売春婦のことである。
このハーロットがシャーロットを連想させた。
「愛の嵐」はパラフィリアともいえる、
性的倒錯をテーマにしており、
強制収容所の将校と収容されたユダヤ少女の
愛とも呼べぬ愛が嵐のように吹きすさぶ。
幼さの残る乳房も露わなサスペンダー姿に
ナチスの制帽をかぶって踊るシャーロットは
観る者に強烈な印象を残す。
彼女の演ずるルチアは売春婦ではない。
時を超えて二人が再会したときは
米人指揮者の妻の座に収まっている。
イメージが重なったのは
ハーロットとシャーロットのライムに拠るものだが
とにかく桑田が歌い出した。
観終わって部屋の窓を開け、
暗い夜空を見上げても、降る星は一つとしてなかった。