2021年6月11日金曜日

第2674話 星降らぬ夜のシャーロット

ウイーンを舞台にした映画となると

中高年なら誰しもが真っ先に思いつくのは

キャロル・リード監督の「第三の男」。

あとは「アマデウス」、「うたかたの恋」あたりか―。

 

「男はつらいよ 寅次郎心の旅路」なんて変化球もあるネ。

B・ランカスターとA・ドロンが

「山猫」以来の共演を果たした「スコルピオ」は記憶に残る。

1973年、ケニアのナイロビで観たという特殊性が

印象深さに拍車をかけるらしい。

 

この日択んだのはイタリアの女流監督、

リリアーナ・カヴァーニによる、

「愛の嵐」(原題:Il Portiere di Notte.英題:The Night Porter)。

「山猫」のルキノ・ヴィスコンティが

高く評価した1974年の作品は

ダーク・ボガードのマックス、

シャーロット・ランプリングのルチアが主役。

 

J.C.はこのイギリス女優が好き。

つい、最近もP・ニューマン主演の「評決」に

出ているのを知って観たばかり。

 

ベルリン五輪の4×400mリレーの金メダリストを父に持つ、

彼女の魅力は何といっても神秘に満ちた双眸(そうぼう)。

イタリアのS・サンドレッリとC・カルディナーレの大ファンだが

彼女たちの瞳が秘めるのは情熱、対してシャーロットのは冷徹。

 

いきなり桑田佳祐の歌声が聴こえてきた。

 

♪   星降る夜のHARLOT ネオンにじむ部屋

  I love you baby, holding me tight anyway

  憎いピンハネ野郎 ウロつき回るよ

  いつも目を血まなこにして

  小粋なドレスも着てみたい     ♪

 

「星降る夜のHARLOT」は1983年リリースのアルバム、

「綺麗(きれい)」に収録された楽曲。

ハーロットは英語で売春婦のことである。

 

このハーロットがシャーロットを連想させた。

「愛の嵐」はパラフィリアともいえる、

性的倒錯をテーマにしており、

強制収容所の将校と収容されたユダヤ少女の

愛とも呼べぬ愛が嵐のように吹きすさぶ。

 

幼さの残る乳房も露わなサスペンダー姿に

ナチスの制帽をかぶって踊るシャーロットは

観る者に強烈な印象を残す。

 

彼女の演ずるルチアは売春婦ではない。

時を超えて二人が再会したときは

米人指揮者の妻の座に収まっている。

イメージが重なったのは

ハーロットとシャーロットのライムに拠るものだが

とにかく桑田が歌い出した。

 

観終わって部屋の窓を開け、

暗い夜空を見上げても、降る星は一つとしてなかった。