都営新宿線を市ヶ谷で降りた。
靖国通りのゆるやかな坂を上ってゆく。
一礼はしたが参拝はせず、拝殿に背を向けた。
このとき、心に流れ来るのは島倉千代子の歌声だ。
♪ やさしかった 兄さんが
田舎の話を 聞きたいと
桜の下で さぞかし待つだろ
おっ母さん
あれが あれが 九段坂
逢ったら泣くでしょ 兄さんも ♪
(作詞:野村俊夫)
「東京だョおっ母さん」は1957年3月のリリース。
夢破れて故郷を追われたJ.C.一家4人が
東京に出て来た頃である。
亡父は母子3人に
「東京だョ皆の衆」とは言わなかったがネ。
’55年のデビュー曲、
「この世の花」に次ぐ大ヒットとなったが
不可解なことに紅白で歌われたことは一度もない。
35回も出場しているのにだ。
NHKの作為がひしひしと伝わってくる。
おそらく二重橋(皇居)、九段坂(靖国神社)が
歌詞にあるので皇室と戦没者に配慮したためだろう。
それはそれとして
この日ののランチは靖国神社境内の「八千代食堂」。
当店は玉子丼&会津そばをウリとしている。
両者を組み合わせたセットもあるけど
そんなには食べられない、よって玉子丼をー。
日頃、かつ丼はよく食べる。
もっともアタマだけをつまみとするケースが多い。
親子丼はめったに注文しない。
玉子丼ときたひにゃ、
生涯3度目くらいじゃなかろうかー。
これには理由があった。
「八千代食堂」の玉子丼にはルーツがあり、
特攻の母 鳥濱トメの 親子丼
がソレ。
鹿児島県・知覧特攻基地の軍指定食堂でもあった、
「富田食堂」を開いたトメさん。
特攻隊員に母と慕われた彼女の味が
今に引き継がれているのだ。
トメさんの曾孫にあたる方が手造りする、
割り下を週2回取り寄せる由。
店のHPにはこうあった。
私ども靖國八千代食堂は
「かつて戦塵に散った英霊の想いや、
国に殉じた方々、また彼らを送り出し、
支えた人々の愛を伝える場所」
がコンセプトの食堂です。
聞いたからには食べたくなるのも人情。
自分は謹んでありがたく、いただきます。
=つづく=