2015年4月3日金曜日

第1069話 花冷えに見舞われて (その2)

上野動物園・西園に隣接する不忍池は3つの小池に分かれている。
西園のすぐ前にあるのが鵜の池。
以前は中ほどの浮き島にカワウがコロニーを形成していたが
いつのまにやらペリカンが居候を決め込んでしまい、
あるじのカワウはその数をずいぶん減らしてしまった。

鵜の池の南東に位置するのが蓮池。
江戸の昔には蓮根の大産地だった由。
その西側がボート池だ。
名前の通りにここだけは手漕ぎ、
もしくは足漕ぎのボートで水面に遊ぶことができる。

N美の抵抗にあって仕方なくボート池を臨むベンチで宴を始める。
バルバレスコ・リヴァータ ’11で乾杯。
う~む、香り高き美酒だぞなもし。
その証拠に相方が早くも相好を崩している。

それにしても寒いぞなもし。
歩いているときには感じない寒気が動きを止めるとすぐに牙をむく。
とにかく松坂屋で調達したオードブルを広げた。
すべて1年ほど前にオープンした「ポール・ボキューズ」の製品である。

売り場の前に立ち、
「好きなモンを3つ選んでいいヨ」―こう伝えると、
彼女のチョイスは
生ハム入りセロリとりんごのサラダ、タコとトマトのマリネ、
ローストビーフとアヴォカトのジュレ寄せだった。
J.C.がそこにチキンのシャリアピン風を加える。

この寒いのにすべて冷製の料理。
チキン・シャリアピンは本来、温製であるべきだが
何せ売り場には電子レンジがないんだわ。
コンビニやスーパーでは常に完備されている”チンさん”が
高級デパートの地下にないという意外なる事実。
この程度のサービスしかできないから百貨店は衰退するんだヨ。

オマケにチキンが塊りだから
プラスティックのナイフを所望すると、その準備もない。
結果、われわれは池の水鳥の真ん前で
彼らと同類のニワトリにかぶりつき合ったのでありました。

ワインを飲み干して、チキン以外はつまみもほぼ完食。
結局、あまりの花冷えに耐えられず、
逃げ込んだのがそこから徒歩3分のそば屋「新ふじ」だった。
菊正の熱燗をさしつさされつしながら
もつ煮込みとおでん盛合わせを味わう。
その旨さたるやP・ボキューズの比ではない。
あっという間に菊正宗・正1合瓶が3本空いたものネ。

息子を保育所に預けてきた相方に
仕上げの鴨せいろを食べさせ、早めの帰宅を促してお開きとする。
たとえ短い時間であっても
気心の知れた盟友と酌み交わす酒は身体に沁みわたる。
暖かくなったら横浜に連れてゆく約束をして別れた。

「新ふじ」
 東京都台東区池之端2-8-4
 03-3821-3913