2023年2月21日火曜日

第3215話 東京最古のおでん屋さん (その2)

思い起こせば、初めて「多古久」に伺ったのは
1978年だから実に45年前。
浅草の「弁天山美家古寿司」訪問も同年で
隅田川の花火が復活した年だった。
仕事が終わると旨いモンを求め、
都のあちこちに出没し始めた時期だった。

鍋の前に陣取る女将さんに
黒ラベルの中瓶と小肌酢をお願い。
小肌が切れて生モノはまぐろだけだという。
それではと、目刺しを焼いてもらう。

こんがり焼けたのが4尾来た。
中瓶を飲み終え、褒紋正宗のぬる燗を所望。
白鷹の酒造によるこの酒は知る人ぞ知る銘酒だ。
そろそろおでん。
初っ端はスジとつみれをー。

「スジは魚のスジですけど」と女将。
「存じております」とJ.C.。
品書きにも、=スジ(魚)=と明記されている。
今の若者の間では牛スジが主流だからネ。
困った風潮で、べつに困らなくてもいいんだが
アレはそもそも浪花の食いモンなんだヨ。

辛子がよく効いて、これぞ名店の証し。
燗酒をお替わりし、お次は白滝と牡蠣。
この稿を起こすにあたり、自著をチェックしたら
はるか昔もほとんど同じモノを食べていた。
今回はフキがスジに変わっただけ。
記憶はまったく失せていたけれど
人の好みって何十年も変わらないんだネ。

「女将さんは先代の女将さんのお嬢さん?」
「ええ、さいです」
言葉を交わし始めた。
包丁を握るのはご亭主ではなく弟さん。
お運びが娘さん。
家族3人の揃い踏みと判明した。

シャコ爪は品書きから消えて久しいとのこと。
そりゃそうだよなァ、
シャコ本体が消えちまったもの。
江戸前なんざ、ついぞ見かけない。
ほうら。五木ひろしも歌い出したヨ。

♪   シャコ爪は 消えて 消えてしまった
  シャコ爪は 消えて 消えてしまった
  もう 帰らない        ♪

一人たそがれて
東京最古のおでん屋さんをあとにしました。

「多古久」
 東京都台東区上野2-11-8
 03-3831-5088