2020年11月13日金曜日

第2524話 さんまの造りと松茸ごはん

その日は湯島から昌平橋通りを南へ歩いていた。

そろそろ昼めしにしようと脇道に入り、物色の開始。

マークしていた中国料理「I」はお休み。

卓抜なイタリアン「S」の店先に来たものの、

パスタの気分ではなくなった。

 

ほどなく池波正太郎翁の愛した「花ぶさ」に差し掛かる。

もう10年はおジャマしていない。

店頭にランチの品書きが貼り出されていた。

ひときわ視線を吸い寄せるのは

 

=本日のご飯は松茸御飯です=

 

この一筆だった。

ラインナップは5品。

 

カニクリームコロッケ さんまお造り さんま塩焼き

銀だら煮つけ 穴子天ぷら

 

すべて松茸御飯とのセットになっている。

価格帯はおおよそ1500~1700円と

近隣のリーマン&OLにはちとキビしい。

むろんのことにJ.C.にも予算オーバーだが

せっかく立ち止まって目を通したのだし、

かくも長き無沙汰を埋めるためにも

覚悟を決めて暖簾をくぐった。

 

L字のコーナーを削り落とした変形カウンターが懐かしい。

看板女将の姿が見えず、お運びは娘さん、板さんは二人。

今秋初のさんまを造りと塩焼きで迷いながら造りをお願いした。

 

膳が整うまでのあいだ、ぼんやりと

壁に飾られた池波翁の写真を眺めていた。

常に立て込む時間帯を避け、ゆるりと酒を楽しんだ翁。

背中を押されて生ビールの発注に及ぶ。

 

さんま薄造りのあしらいは大葉と茗荷、

薬味が生姜と浅葱(あさつき)。

松茸御飯は小ぶりの茶碗、小鉢の切干し大根、

なめこ赤だし、香の物がきゅうり・大根・白菜。

 

飛び切りではなくとも、さんまはそれなりの鮮度を保っている。

もう一つの主役、松茸御飯はいきなり柚子の香りが来た。

追いかけるように松茸が香るものの、本体は見当たらない。

香れども姿を見せぬきのこかな。

 

脇役陣はみなていねい。

板さんに促されて御飯を半杯お替わりする。

予期せぬ甘味は白玉ぜんざい。

小豆が上手に炊かれていた。

 

大葉・茗荷・生姜・浅葱・柚子・松茸。

味というより香りを満喫してのお勘定は2550円也。

税のほかにサービス料も10%加算されるようだ。

普段遣いはできなくとも

たまさかのゼイタクにはオススメであります。

 

「花ぶさ」

東京都千代田区外神田6-15-5

03-3832-5387