銀座3丁目、ガス燈通りの「煉瓦亭」。
1階が満卓につき、2階に案内された。
地下から3階まで4フロアのうち、2階が一番落ち着く。
3階は座敷になっており、以前はグループ客が多かった。
換気のよくない地下は現在、使われていない。
仔牛カツレツ
or かきフライのどちらかを―。
そのつもりで来店したが、まだ迷っている。
壁の貼り紙により、生ビールはプレモルと判明。
メニューに大瓶(1000円)、小瓶(700円)とあるが
銘柄の記載はない。
バイト風のオニイさんに質すと
「あっ、ちょっとお待ちください」―
冷凍ケースから抜き出した大瓶のラベルをかざして
「こちらになります」―サッポロ赤星だ。
深川の食堂「ひまわり」のジイちゃんを思い出した。
キリンと思い込んでいたのに実際はアサヒ。
笑わせてくれた、あの孤独なジイちゃんを―。
意を決して大瓶、かきフライをオーダー。
ナイフ&フォークをセットしに来た、
ベテラン風のウエイターに確認したら
大瓶は赤星、小瓶がキリンラガーとのこと。
カトラリーは装飾が施された優美なもの。
フィッシュナイフとフィッシュフォークはかくあるべしだが
最近はホテルにおける、仏料理の結婚披露宴を除けば、
ほとんど見かけることがない。
オイスターはやや大ぶりが5カン。
生パン粉がカリッと揚がっているわりに舌にやさしい。
付合わせは丁寧な仕事ぶりのポテトサラダと
キャベツなんだが単なる繊切りキャベツではない。
軽く酢油で和えられ、きゅうりとニンジンも散見された。
タルタルソースは茹で玉子が主張するタイプ。
卓上のソースはウスターと中濃の中間あたり。
ナイフには指をふれず、フォークだけでいただく。
魚料理はナイフを使わぬほうが見た目ずっとスマートだ。
美味の際立つかきフライ。
先日、駒塲東大前の「菱田屋」で
デカいだけが自慢の無粋なヤツを
かきフライのバイオレンスと評したが
「煉瓦亭」はまさしくエレガンス。
埋めがたい両者のディファレンスを目の当たりにしている。
火を通し過ぎると貝柱が硬くなってしまう、
かき特有の欠点を生じさせぬ技術の高さが光る。
つかの間、舌にトロリと絡んだあと、
滋味を味蕾に残して消えてゆく。
官能を刺激する魅惑の感触は
僧院の片隅で清らかな尼僧と交わす、
禁断のディープキスもかくやと思われた。
「煉瓦亭」
東京都中央区銀座3-5-16
050-5872-1852