そして2日後。
相方は先日飲んだ馬主の半チャン・アゲインだ。
離日が近づいているので、その前にいま一献となった。
ニュー新橋ビル地下で探り当てた酒場、
「ダイヤ菊」は5年半ぶり。
敗戦後まもなく開業した老舗酒場が
緊事宣下に酒類を提供してくれている。
内より外で飲みたい左党にとって、ありがたい限り。
長野県・茅野市のダイヤ菊酒蔵による銘酒は
小津安二郎がこよなく愛した酒である。
脚本の執筆を兼ねて蓼科の別荘に滞在時は
朝からダイヤ菊の燗酒を飲み始める。
小津に可愛がられた俳優・三上真一郎によれば
酒の温度は決まって55度だったというから
熱燗なんてモンじゃない、俗にいう飛び切り燗だ。
今宵は次に銀座の夜が控えているため、
われわれは信州のダイヤを迂回した。
ドライの中ジョッキを合わせる。
突き出しは温泉玉子。
J.C.はジョッキ半分を一気に飲み下したが
半チャンは温泉玉子を一気に飲み干した。
まさに馬並みですな。
そうしておいてマミツの注文。
信州産の馬刺しと発芽にんにくの天ぷらを通した。
赤身肉はすばらしくはなくとも水準に達している。
ヨソではニンニク・スプラウトなどとも呼ばれる、
発芽にんにくは珍しくも千葉県・船橋の産。
大半はみちのく生まれだからネ。
生を2杯づつ飲り、芋焼酎のロックに移行する。
銘柄は薩摩の一刻者(いっこもん)。
焼酎を、しかもロックで飲るくらいなら
店の看板、ダイヤ菊でいいじゃないか―。
そう思われる向きもおられようが
小津監督が愛したように、あの酒は熱めの燗がいい。
このクソ暑いのに熱燗はムリでしょ。
鴨つくねの串焼きを追加し、ロックを何杯か重ね、
馬肉&にんにくで精もつけたことだし、
2階のマッサージ・パーラーに、
じゃなかった、西銀座に乗り込んだ。
前回と同じホース(horse)つながりの隠れ家である。
暗い裏路地の地下は禁酒法時代の
スピークイージー(密売酒場)を想わせる。
多少のうしろめたさを引きずりつつ、
それでもカポネ・ブラザースは階段を降りてゆく。
背中にアンタッチャブル隊長、
エリオット・ネスの視線を感じながら・・・
Don’t you ever touch us, all right ?
「酒蔵
ダイヤ菊」
東京都港区新橋2-16-1ニュー新橋ビルB1
03-3580-5375