あれは去年の5月初めのこと。
急にカニが食べたくなったんだガニ。
湯島の「井泉本店」に意気揚々と乗り込み、
かに&胡瓜のサラダ、かにオムレツの
クラブ・ブラザーズで攻めてみたものの、
不満を残す結果を招いた。
翌週は二子玉川まで遠征し、
「リヴィエール」のカニクリームコロッケに挑んでイマイチ。
その帰途、渋谷の「なかじま」でカニレタス炒飯。
これはなかなかだったが
カニカニ感あふれるというほどではなかつた。
後日、曳舟の「上海菜館」で
ソフトシェルクラブの唐揚げ。
ビールのつまみにはなったが舌はさほど歓ばず。
カニ行脚の旅は失敗に終わった。
しかし、そのとき、
度重なる不首尾を救ってくれた店があった。
当コラムではまだ紹介していない。
何たってJ.C.、ひた隠しに隠してきたからネ。
この行動を見て前都知事みたいにセコいヤツめ、
なんて言って欲しくない。
れっきとした理由があるのだ。
当該店は北上野の「栄来軒」。
この地に根づいて久しい本格中国料理店だ。
エンコ&ノガミ界隈を徘徊していて
偶然に見つけたのが2年前の初秋。
たたずまいに惹かれた。
昭和の高級中華が時を経てこうなりました、
という姿に心奪われ、数日後に来訪。
厨房が1階につき、客は階段で2階に上がる。
ランチサービスメニューが9種ほど並び、
中にはパソコンに出て来ない、
難解な中国文字で記された料理もいくつか―。
時菜三鮮(1400円)というのをお願いした。
天然海老・烏賊・蟹と季節野菜の塩味煮はアッサリ仕上げ。
大根醤油・きゅうり甘酢・ザーサイの漬物トリオ、
塩味水菜スープ、レタスサラダ、
ごはんはおひつで運ばれた。
上品な味わいに造り手のセンスが伝わってくる。
これはウラを返さにゃなるまい。
2週間後、やはり昼過ぎに訪れた。
千載一隅のラッキーチャンスが
待っているとも知らずに―。
=つづく=