ときどき、はるか昔に棲んでいだ町を訪ねたくなる。
この日もそうだった。
23区内に数ヶ所あるが出掛けたのは小田急線・代々木上原。
井之頭通り沿いに古賀政男音楽記念館、
その1ブロック東が仲通り商店街の入口だ。
およそ600mの商店街中ほど、
木造二階建てに父親と二人で居そうろったのは1957年。
一家四人が長野市から上京した年だった。
ホンの数ヶ月の短い間ではあったが
母親は大学病院に棲み込み、弟は母の兄夫婦に預けられ、
家族ばらばらの生活は大変だったと思う。
子どもたちに自覚がなくとも親は相当苦労したハズだ。
20年前に訪れたとき、民家はまだ残っていた。
その5年後の再訪時はマンションに建て替わっていた。
それでも仲通りは昔のよすがを偲ぶにじゅうぶん。
だからこそ時として心動かされ、無性に訪ねたくなるのだ。
仲通り商店街で食べたことのない昼めしを今日は食べよう。
当てがなくても町中華、日本そば屋くらいあるだろう。
この通りなら何処でもかまいやしない。
ところがギッチョン、中華は目下休業中。
かろうじて、そば屋が1軒開いていた。
「丹波屋」は棲んでいた家の並び。
井之頭通りからだと、5、6軒手前かな。
かなり広い店内に先客はゼロ。
案の定、ビールはダメだった。
名代らしきミニそば&ミニ丼セット(850円)が10種以上。
それぞれに、うめ・きく・はぎ・ばら・ぼたんなど
花の名前が付けられている。
すみれ(いか天丼)と迷った末、
ふじ(かつ丼)を冷たいそばでお願いした。
下調べナシの飛び込みにつき、何の期待もしていない。
ところが再びギッチョン、もりが素晴らしい。
見るからに手打ちのそばが冷水でビシッと締められ、
舌の上に清涼感を呼び寄せる。
噛み心地、ノド越し、ともに申し分なし。
つゆも好みのタイプで
もうちょい下世話な甘みがあったら百点満点。
もりのボリュームはミニどころじゃなく
ミニかつ丼が要らないくらいなのに
そのかつ丼もかなりのサイズで厚切りロースが3切れも―。
商店街を抜け、東大技術研究センターの前を右折。
三角橋を経て小田急線・東北沢駅に到達した。
いや、ずいぶん変わったなァ。
2年前、下北沢の変貌ぶりに驚かされたが
東北沢にはもっとビックリした。
駅前の高台にミニ広場が設けられ、
ここから臨む景色は一望の価値あり。
東京ジャーミイ(モスク)のドームとミナレットが
西陽を浴びて輝いている。
東北沢だと、住まいの最寄りまで乗り換え不要。
寄り道などせず、おとなしく帰宅の途につきました。
「丹波屋」
東京都渋谷区上原2-40-9
03-3467-1345