2022年2月22日火曜日

第2956話 春色の天せいろ (その1)

本日の出没先は西武池袋線・中村橋。

駅から10分ほど歩き、

「玄蕎麦 野中」に到着すると。

ここは住宅街に“ポツンと一軒店”だった。

 

テーブル席は二人掛けが四卓。

靴を脱いで上がる座敷には畳の代わりにカーペット。

こちらもテーブル&椅子だが中を見渡せない。

二人掛けの一卓に落ち着いた。

 

玄関先にそば粉の産地が明記されており、

鹿児島吹上町産のさちいずみという品種。

といっても素人に道産や信州産との違いが

判るはずもなく、そういうことは玄人に任せろ、

と言わんばかりの「玄蕎麦 野中」かな?

 

黒豆茶を運んでくれたオニイさんに

ビールの可・不可を訊ねたら

OKでドライの小瓶とのこと。

いいでしょう、もちろんいただきますとも。

 

品書きを繰る。

穴子天せいろ(1650円)に決めかけて逡巡。

第一頁の写真を見返す。

“春色”と称する、

魚介と山菜の天せいろ(1980円)に惹かれた。

 

陣容は、車海老・キス・たらの芽・こごみ・

わらび・ふきのとう。

特段、山菜を好むのではないが

鼻先と口元に春の香りと味覚を届けよう、

という気になった。

 

最初の1杯をトクトクするところへ

本わさびと当たりがねが運ばれた。

当たりがねとはわさびを摺(す)る摺りがねのこと。

摺るは博打で持ち金を擦(す)ることに通じ、

縁起が悪い。

 

よって和食の世界では

“摺り”を真逆の“当たり”に置き換えて

こう呼ぶ習わしである。

スルメをアタリメというのも同じ理屈だ。

 

さっそく、わさびを摺り始め、

じゃなかった、当たり始めた。

ただし、当店の当たりがねは

あまりに目が細かく、なかなか卸せない。

 

それもそうだヨ、目を大きくしたら

高価な本わさびをじゃんじゃん卸され、

店はたまったもんじゃないもんネ。

 

=つづく=