2022年2月23日水曜日

第2957話 春色の天せいろ (その2)

練馬区・中村は「玄蕎麦 野中」。

わさびを当たっていると春色の膳が整った。

せいろは陶器の皿盛りながら、下に竹すだれ。

中太打ちは玄蕎麦というほど黒くはなかった。

 

天ぷらはボリューム満点。

ただ、品書きにあった、こごみの姿なく、

代わりにうるいが3本と結構な量だ。

1片のきのこは何だろう?

椎茸のようでいて、さにあらず。

おそらく大黒しめじだな、これは―。

 

簡単にはノビそうにもない、

そばを置いといて天ぷらをつまむ。

卓上の雪塩(ゆきじお)は

宮古島の海水から作る、きめ細やかな粉塩。

胡麻油たっぷりの江戸前天ぷらには合わないが

揚げ上がり軽やかなタイプにはもってこいだ。

 

小瓶はすぐカラとなるも

いえ、塩じゃなくてビールのネ。

今日はお上品にいってみよう。

お替わりを思いとどまった。

 

そばのコシは相当に強い。

これなら温系でもたやすくヘタるまい。

つゆには品のよい甘みがあり、

町そば屋の下世話な甘さとは一線を画す。

もっともJ.C.は、あの下世話さも愛するがネ。

薬味は大根おろし&さらしねぎだ。

 

卓上には雪塩のほか、黒七味と八味唐辛子。

なかなかにこだわるが

ぜいたくに使える本わさびが手元にある以上、

ほとんど出番がない。

かけそば系となれば、持ち味を存分に発揮しよう。

のちほど、そば湯に振ってみようか―。

 

天ぷらは車海老にさすがの滋味あり。

歯を押し戻す弾力が他のプロウンズとは異なる。

山菜では、ふきのとうの存在感が際立ち、

春の訪れを実感させる。

でもまだ2月半ばだぜ。

 

株価が景気を先取りするように

山菜たちもまた、季節を先取りするのだろう。

そんな健気(けなげ)な自然の恵みを

摘み取り、揚げて、食っちまうんだから

世に人間ほど罪深き生きものはいないネ。

オマエがよく言うヨ、ってか?

ハイ、仰せの通りデス。

 

北風が冷たいものの、陽射しはそこそこ。

冷える午後 日なたを歩けば 寒くない

どっかで聞いたセリフだな。

 

「玄蕎麦 野中」

 東京都練馬区中村2-5-11

 03-3577-6767