2022年2月14日月曜日

第2950話 あの夏の日から60年 (その2)

深川・旧牡丹町の「キッチンまつむら」。

オッちゃんの焼き芋形ハンバーグは

ちっとも悪くなく、むしろ旨かった。

デミグラスがちょいと甘すぎたけど。

 

3本目をガマンしてのお勘定は1700円。

帰り際に言葉を交わした。

昼も夜もずっと一人で働き、独身を貫く独り者。

仕事が楽しいから、ほとんど休みナシとのこと。

人のシアワセって、いろんなカタチがあるもんだ。

 

隣りの「ひまわり食堂」のシャッターが下りていた。

閉業ではないと思われるが

何せお歳だからちょいと心配だ。

 

J.C.は小学生の一時期、

牡丹町の南側の古石場に棲んでいた。

あれは1962年の夏休み。

毎日のように清澄庭園の深川図書館へ通った。

 

当時はまだなかったが

2軒の洋食屋の前を何度か歩いている。

確か、この辺りに

クラスメートの女の子の家があったけど・・・。

道筋を進むとホンの数メートル先に

彼女の苗字の表札を発見。

特定されるのでイニシャルも書けないが間違いない。

 

本人はとっくの昔に嫁いだろうから

兄弟が継いでいるものと思われる。

家はモダンな姿に建て替わっていた。

 

あの夏、こんなことがあった。

図書館に向かう途中、

彼女の家の玄関先を通りすがったとき、

何気なしにのぞいちゃったんだねェ。

ちゃぶ台に座ってる彼女と目が合った。

あの頃の庶民の家は夏ともなれば、

風通しをよくするため、開けっ放しだもの。

 

何だか悪いことをしたみたいで

あわてて立ち去ったが二学期が始まると

これがキッカケで距離が縮まり、友だちになった。

町には倍賞千恵子の「下町の太陽」、

そして真夏なのになぜか、

吉永小百合の「寒い朝」が流れていた。

 

♪   北風吹きぬく 寒い朝も

  心ひとつで 暖かくなる

  清らかに咲いた 可憐な花を

  みどりの髪にかざして 今日も ああ

  北風の中に きこうよ春を

  北風の中に きこうよ春を  ♪

    (作詞:佐伯孝夫)

 

夏が過ぎゆく頃、橋幸夫とのデュエット曲、

「いつでも夢を」が取って代わるように流れ始め、

暮れにはレコード大賞を受賞するのだった。

 

「キッチンまつむら」

 東京都江東区牡丹3-9-1

 03-5639-9876