2011年8月8日月曜日

第113話 スカッとさわやかレモン切り (その2)

魅惑のレモン切りに誘われて
地下への階段を意気揚々と降りていった。
ピーカンの真昼に変りそばのレモン切り。
気持ちはスカッとさわやか、
コカ・コーラみたいなもんである。

中学時代、厳しい夏場のサッカー練習をしながら
帰宅後に飲むコーラを思い浮かべて
苦しさを耐え忍んだものである。
それが今じゃコーラなんかに見向きもしない。
たまにどこぞのバーで気まぐれに
ラム酒をコーラで割ったキューバ・リブレを飲むくらい。

そんなことより昼めしの日本そばである。
店内にはデイヴ・ブルーベック・カルテットの
「テイク・ファイヴ」が流れている。
メンバーの一人、アルトサックス奏者のポール・デスモンドが
作曲したこの曲はいつ聴いても名曲だ。

接客のお姐さんに「レモン切りを」と言い掛けて逡巡。
結局、せいろとの二色もりにした。
この日はヘビーなディナーを慮って天ぷらはパス。
その代わりと言っちゃあ何だがビールの中瓶である。
ミュージックがアンディ・ウイリアムスの「ムーン・リバー」に替わった。

「とお山」の魅力は変わりそば。
季節の移ろいとともに
柚子・青海苔・梅・よもぎ・抹茶・けし・紫蘇と打ち分ける。
4月のアタマには桜切りも登場するに相違ない。

レモン切りが最初に運ばれた。
一口すすり込み、奥歯で噛みしめる。
変わりそばはその香りもさることながら御前粉の噛みしめ感が命。
のみ下したあと、鼻腔に残る柑橘の爽快感は記すまでもない。
薬味は相変わらず丁寧なさらしねぎと辛味の利いた粉わさび。
粉わさびは想定の範囲内ながら、困ったのは塗り箸である。
先っちょ4センチほどに滑りどめが施されているものの、
食べにくいことこのうえなく、そばには割り箸であろうよ。

せいろは二八そばだ。
本日のそば粉は北海道の音威子府(おといねっぷ)産。
二色を食べ比べると断然レモン切りである。
変わりそばの種が変わったら、また食べに来よう。
夜に訪れ、揚げだし茄子やにしん旨煮で飲むのもいい。
初めて目にした銘柄、純米酒のビキニ娘も気になることだし・・・。

BGMはいつの間にか
大好きな「You'd Be So Nice To Come Home To」が掛かっている。
コール・ポーター作詞・作曲のこれまたすばらしいジャズのスタンダード。
歌っているのは誰だろう。
日米を問わず、あまたの歌手がカバーしているが
声色からして大御所のヘレン・メリルじゃなさそうだ。
ジュリー・ロンドンでもナンシー・ウイルソンでもないぞこれは。
ふ~む、まっ、いいか。
ビールを飲み干し、熱いそば湯も冷たいそば茶も飲み干してお勘定。

以前、「とお山」があった駅前には高層ビルが建っており、
1階に姉妹店「遠山」が出店しているが
こちらはそば粉9割の九一そば。
変わりそばは出さないから、お間違えなきように。

「とお山」
 東京都荒川区東日暮里6-60-10日暮里中央ビルB1
 03-3806-1881