その日、小田急線の電車を降りたのは祖師谷大蔵。
世田谷区のセレブタウン、成城学園前の一つ都心寄りだ。
駅北側の祖師谷、南側の大蔵、二つの町の合成ネームだが
実際に駅のすぐ南は砧(きぬた)で大蔵はその向こう。
しかも砧のほうが知名度も高いのに
なぜ駅名を祖師谷砧にしなかったんだろう。
漢字3文字と1文字じゃバランスが悪かったのかな?
かつて砧に怪獣映画の特撮で名をはせた
円谷英二監督のプロダクションと自宅があったため、
ここはウルトラマンのホームタウン。
町を縦横に走る2本のメインストリートも
ウルトラマン商店街を名乗っている。
目当ての「キッチン マカベ」に到着したのは正午過ぎ。
1階のテーブルは満席だ。
カウンターの椅子には雑誌類が置かれ、使われていなさそう。
フロアに接客係の姿なく、そのまま勝手に2階へ上がった。
懐かしい光景が広がる。
四人掛けが1卓空いており、そこに案内された。
同時にスタッフが階下に叫ぶ。
「満席でーす!」
この時点で他テーブルにほとんど料理が配膳されておらず、
かなり時間がかかりそう。
リーマン・OLのランチ利用は難しいだろう。
本日の欠品は牡蠣と豚リブロース。
最初にこの申し出はとても大切だ。
注文後しばらく経ってから、無い旨を告げられると
「初手から言うてくれい!」―
温厚な客の声もさすがに荒がるからネ。
自著「昼めしを食べる」で当店を紹介した際、
ピンポン玉みたいなクリームコロッケが2個、
オムライスに添えられる、通称オム・コロを推奨したが
本日は未食の料理でいきたい気分。
入念にメニューを吟味し、店先のウインドウにあった、
スペシャルインディアンライス(¥1350+)を選択する。
蝋細工はドライカレーにカレーソースがかかり、
傍らにチキンカツが乗っていた。
次第に料理が出始める。
全体の七割を占める女性客、その過半数がオム・コロだ。
入店から40分で注文品が整い、このとき中瓶をお願い。
皿を、すがチャンみたいに俯瞰して失望の色隠せず。
ドライカレー全体にソースがぶっかかってるヨ。
サンプルはライスが半分顔を出してたんだがなァ。
=つづく=