世田谷区・池ノ上から渋谷区・駒場東大前へと歩いている。
駒塲野公園を通過すると、辺りは真っ暗。
こいつは若い娘なんぞ歩けやしないぜ。
老人と子どももあかんなァ。
このとき流れくるのは小百合チャンの歌声だった。
誰だ? その女は! ってか?
小百合っていやあ、
吉永サンに決まってんじゃないすか。
吉永サンつったって
朝からTVに出てる騎手の女房じゃないヨ。
吉永小百合チャンだヨ。
♪ 歩いて歩いて 悲しい夜更けも
あの娘の声は 流れくる ♪
ご存じ「いつでも夢を」の2番冒頭であります。
ん? そんなら橋幸夫の声もだろっ!、ってか?
いえ、いえ、ここは小百合のソロ・パートなんざんす。
17時半開店の「菱田屋」の敷居をまたいだのは18時前。
すでに7割の席が埋まっていた。
エリアで大人気の定食屋は初訪問。
入ってすぐ左にUターンすると、
相席用8人掛け大テーブルがあり、
その一番奥、壁際を指定された。
真向かいで単身男性がレモンサワーを飲んでいた。
いやマイッた、後客が隣りに来たら簡単にゃ出られんぜ。
航空機の窓側席を思い浮かべていただきたい。おまけに4席並びときたもんだ。
卓上にも目の前の壁にも品書きの類いが見当たらない。
入って右側の壁に貼り出されているだけだ。
オペラでいうパーシャル・ヴューそのもの。
尻を滑らせていったん奥に落ち着いたはいいが
ただちに滑り戻してメニューが書き出された、
壁の前に出向いて沈思熟考。
後客が来たら出たり入ったりできないから追加注文は難しい。
すべてはムリなので、めぼしいモノだけ頭に入れた。
しっかし、何て非常識な店なんだ、ここは!
飲み食いする前からムカッ腹を立ててる。
かなりの距離を走破して、ふくらはぎが痛む。
それよりもノドの渇きをいやすのが先決だ。
待望のビールは生が一番搾り、
中瓶がハートランドと黒ラベル。
キリンの中では唯一好みのハートランドを通した。
=つづく=