2023年10月20日金曜日

第3388話 小雨にけむる帝釈天 (その2)

川魚料理のうちでおそらく最大の難関、
鯉こくにあえて挑むことにした。
こればかりは信頼のおける、
料理屋以外ではまず食べられない。

柴又にはかつて「川甚」なる大店の老舗があった。
1969年の虎さん映画第一作、
「男はつらいよ」に実名で登場する。
此処で妹・さくらと博の結婚披露宴が
開かれたのだった。

一方の「川千家」は映像に映らないものの、
やはり実名で登場する。
草だんごの「高木家」同様に
三崎千恵子扮するおばちゃんが
店名を口にするのだ。

配膳された鯉こくは迫力満点。
筒切りがお椀の中で
ひときわ存在感を放っていた。

うれしいのはワタを抜いた穴を
埋めるように肝と白子そして
海水浴シーズンはとうに過ぎたというのに
浮き袋まで潜んでいた。

菊正の合いの手としては
じゅうぶん過ぎるほど、存分に楽しんだ。」
ここで思い出されたたのが
中学生のときに読んだ週刊誌である。
父親が買ってきた文春だか新潮だろう。

食コラムに当時、一世を風靡した女優、
山本富士子が登場。
「私の大好物」として
赤坂のうなぎ割烹「重箱」のうなぎではなく、
鯉こくが紹介されていたのだ。

これには中学生のJ.C.、マジで驚いた。
あんなに綺麗な人が何でまた鯉こくなんぞをー。
まさに
あの顔で 鯉こく食うかや 富士子さん
てな感じだ。

数週間後の同じコラム、
今度は小川真由美である。
彼女の大好物は京都のすっぽん専門店、
「大市」と来たもんだ。
こちらも
その顔で すっぽん食うかや 真由美さん
でしたネ。
満足の会計は3250円也。

駅前の寅さん像の真ん前。
ロケの合間に寅さんが納豆オムレツを食べた、
飲み処「春」に来ると、あいにくの定休日。

思い出すなァ、あれは20年前。
元カノ・K子と堀切菖蒲園から流れて飲んだ。
銀行勤めだったから人当たりがよかったんだねェ、
「春」のママがすっかり彼女を気に入ってしまい、
柴又駅のホームまで見送りに出てくれた、

さくらに送られる寅さんの心持ちになったのを
昨日のことのように思い出す。

「川千家」
 東京都葛飾区柴又7-6-16
 03-3657-4151