2025年4月4日金曜日

第3768話 思い切れない桜切り (その2)

板橋本町は旧上宿の「長寿庵」。
気がついたら準常連になっていた。
そいでもって大阪の酒、かたの桜。
いや、これがふくよかな美酒だった。

京都の伏見、兵庫の灘と、
日本の誇る酒処に
サンドイッチ状態の大阪。
浪花にも美味い酒が潜んでいたのだ。
率直に驚きました。

鴨串の塩焼きを追加する。
胸肉は鴨南蛮の主役を張るため、
余ったもも肉を活用するわけだ。
粉山椒を振ってパクリ。
歯応えは増すものの、けして悪くない。

そうしておいて締めの桜切り。
ほのかなピンクを想像したが
紫がかってヤケに色濃い。
色白の更科系そばを供する、
「長寿庵」だからこその変わりそばだ。
そば湯もいただき、会計は金3540円也。

2日前にも渡った板橋の橋の上。
上宿と仲宿の境界にあり、
南に渡れば仲宿になる。
橋上から下流方向に延々と続く、
桜を眺めていて、ふと思いついた。
そうだ、川沿いを下ってみよう。

陽射しに恵まれた左岸をそぞろ歩いて
あまりの美しさに驚く自分がいた。
今日はよく驚く日だが
此処は都内指折りの桜の名所と断じてよい。
人波もそこそこで歩きやすいしネ。
「長寿庵」の桜切りと
石神井川の桜並木の二段構えは
毎春恒例となること必至であります。

帝京大附属病院、東京家政大、
谷津大観音、紅葉橋を経て
とうとう音無親水公園に到達。
王子まで来ちゃったら
行きつけに顔を出さずには済まない。

日曜日の「豫園飯店」は初めてだ。
土・日は店に居ないはずの我が友、
S蘭が忙しく立ち働いていた。
近くの飛鳥山は桜の見ごろを迎え、
花見客が大挙して店にも押し寄せる。
14時過ぎで行列は8人と来たもんだ。

15分ほど並んだあと、
団体用の丸卓を独占し、
中瓶2本と一番軽い海老春巻きをー。
まかないを食する、
中国オネバ三人組の輪に加わり、
しばらく談笑して店をあとにした。

せっかくだから飛鳥山の桜も愛でる。
う~む、やはり桜は山より川だネ。
陽光を求めて川面に張り出す枝にこそ、
桜木の醍醐味があるからだ。
それでも徘徊すること四半刻、
王子駅へ続く坂道を下って行きました。

「長寿庵」
 東京都板橋区本町18-9
 03-3960-5525

「豫園飯店」
 東京都北区滝野川2-7-15
 03-5394-9951

2025年4月3日木曜日

第3767話 思い切れない桜切り (その1)

板橋本町の「長寿庵」。
今が季節の桜切りを思い切れない。
2日後に舞い戻った。

千石から乗った都営三田線に
揺られていると往年の名歌手、
菅原都々子が歌い出した。
特徴のあるソプラノだ。

♪ 思い切れない 未練のテープ
  切れてせつない 女の恋ごころ
  汽笛ひと声 汽笛ひと声
  涙の波止場に
  わたし一人を 捨ててゆく
  連絡船よ        ♪  
   (作詞:大高ひさを)

「連絡船の唄」は昭和26年のリリース。
この名曲は後年、都はるみの大ヒット曲、
「涙の連絡船」に多大な影響を与えている。

それはそれとして「長寿庵」。
ビールはラガーとプレモルしかなく、
以前よりなんぼか飲みやすくなった、
ラガーの大瓶を所望した。

桜切りの完売を心配して
お運びのオネバさんに
「あとで桜切りなんだけど、
 今のうちに頼んどいたほうがいいかな?」
「オホホ、だいじょうぶですヨ、
 いっぱい打ってありますから・・・」
「じゃ、あとで声掛けするネ」

つまみは焼き油揚げ。
これは単なる素揚げではなく、
きつねそば用に一度甘く煮たものを
あぶり直してある。

そこに刻み海苔&刻みねぎ、
貝割れ大根と繊切り大葉がタップリ。
他店にはない一品で
麦酒にも清酒にもピッタリ。
自家製マヨが好いシゴトをしている。

清酒に切り替えた。
ピンク色が美しい尾瀬の雪どけを
お願いしたら品切れ。
桜の季節にバッチリなのに残念。

それではと山形正宗を頼んでみたら
こっちも品切れと来たもんだ。
どうなってんだい? この店は!
温厚な性格の J.C.がキレかかった。

許す、赦す、J.C.はユルす。
気を取り直してこれまた季節に寄り添う、
かたの桜というヤツをー。
霞の香 純米吟醸を謳い、
搾ったまま何も加えずに瓶詰めした、
フレッシュな限定酒です! とあった。

霞に香りなんてあったっけ?
よくよく見れば、大阪府の産だとサ。
大阪の酒は飲んだ記憶がまずない。
まっ、いいか、いってみよう。

=つづく=

2025年4月2日水曜日

第3766話 桜づたいに 歩き続けて (その2)

練馬区・桜台は思い出の町ながら
滅多に来る場所ではない。
そば屋のあとは氷川台に向かい、
石神井川沿いの桜を楽しむ腹積もり。

にしん棒煮の身欠きにしんは
脂が少ない上物、いわゆる上干。
三枚おろしの片身がそのまま出て来た。
清酒に切り替えようとも思ったが
こらえてもりそばを半量でお願い。
胃袋のキャパを残しておきたい。

そばがせいろからはみ出したりして
見た目には感心しないものの、
歯応えよろしく悪くはなかった。
そば湯を省いての会計は1670円。

北口商店街はクルマの通行量が多い。
歩いていてちっとも楽しくない、
とにかく氷川台に到着。
駅前を石神井川が流れている。
川べりの美しい桜並木を散策した。

北東に進路を取り、城北公園通りを往く。
城北中央公園の桜も満開で
花見客が木々の下でくつろいでいる。
大人たちの宴会というより、
子ども連れのピクニックてな感じだ。

懐かしいのは川越街道の五本けやき。
中学の遠足の帰りにバスが此処を通ると
うん、もうすぐ学校に着くな、
そう、思ったものだ。

街道を渡って東武東上線・上板橋駅。
ロータリーに王子行きバスが停まっている。
歩き疲れもあって乗り込んだ。
いつもの調子で乗ってから考える。

終点まで行ってもいいが・・・
待て、待て、
板橋本町で降り、旧中山道を南へ歩く。
ほどなくこれまた石神井川に架かる板橋。
上流・下流の両サイドに桜並木が見事だ。

板橋を渡って縁切榎「長寿庵」。
師走の初訪以来、何度もおジャマしている。
この時期は変わりそばの桜切りが主役。
ただ今、休憩中で扉に貼り紙。
”夜の営業は16時を予定しています”
スマホを見たら時刻は15時45分。
こういうことを想定して
昼のもりそばを半量にしておいたのだ。

仲宿をぶらぶらして時間を費やし戻る。
あれえ! 扉は閉じたまんまだヨ。
もう16時20分だぜ。
あらためて貼り紙を熟視。
”夜の営業はPM6時を予定しています”

あちゃ~! やっちまっただヨ。
夢破れて山河あり、障子破れてサンがあり。
傷心を抱えた短気なオッサンは熱くなり、
都営三田線に乗ってしまったのでした。

「松月庵」
 東京都練馬区桜台4-11-14
 03-3994-2552

2025年4月1日火曜日

第3765話 桜づたいに 歩き続けて (その1)

不忍池のほとりの桜がほぼ満開。
渡り鳥のキンクロハジロも
まだ何羽か残っており、
池畔をめぐっていて楽しくなる。

そうだ! 桜を愛でるために
何処か遠くへ出掛けよう。
J.C.が東京都内で最も愛するのは
港区内のとあるお寺。
けれどもこればかりは公表できない。

寺とは無縁の花見客が
大挙して押しかけたひにゃ、
お寺に迷惑がかかるからネ。

ほかに気に入りの場所を列挙すると、
神田川&石神井川沿い、
茗荷谷の播磨坂、隅田川下流の佃公園、
ぞんなところだ。

世に知られた上野のお山は凡庸だし、
浅草の隅田公園は砂ぼこりがヒドく、
美しい千鳥ヶ淵は人出がすさまじい。
目黒川沿いもイマイチ好みに合わない。

池袋から西武池袋線で4つ目、
その名も桜台にやって来た。
中学の同窓生で人生最初のGF、
K子が此処に棲んでいた。

彼女のアパートで
二人だけのささやかな宴を持ったのは
J.C.がシンガポールに赴任する、
その直前だったから1983年の初春。
あれから42年かァ、いや、懐かしい。

桜台北口商店街の「松月庵」へ。
桜花を愛でる前の桜台で
腹ごしらえという寸法だ。
商店街といってもこの通りは
メトロ有楽町線・氷川台へと続く、
幹線道路沿いで車の往来が激しい。

とにかく暖簾をくぐった。
椅子席と入れ込みの掘りごたつ式が
半数づつ共存している。
2人掛けの椅子席に落ち着く。

お運びのオバちゃんに
ビールの銘柄を訊ねると
大瓶がラガー、中瓶はドライ。
無条件で中瓶を所望する。

つまみの欄に、にしん棒煮があった。
京都の街並みを思い浮かべながら
発注に及んだ。

=つづく=