2021年3月8日月曜日

第2605話 合いの手は スズキのクネル (その1)

東高円寺の商店街、ニコニコロードを抜けて中野。

マルイの真裏に出て来た。

まだ早いため、近隣の飲み屋横丁、

レンガ坂はホンの数軒が開いているばかり。

JR中央線のガードをくぐり、南口から北口方面へ。

 

ブロードウェイまで続くアーケードは芋を洗うが如し。

人混みを避けて東側の飲み屋街に侵入した。

もっとも此処こそが本日の標的なんだがネ。

 

コロ助にやられて去年の春、

歴史に幕を降ろした中野のランドマーク的バー、

「ブリック」があのままのたたずまい。

今夜にでも営業できるんじゃないか―。

と思いきや、店先の花壇の草花は枯れ放題だ。

 

銀座・並木通りの「ブリック」は健在ながら

銀座店以上に独特の雰囲気をたたえた中野店は

使い勝手も居心地もよかった。

 

いずれにしろ、昼下がりの南阿佐ヶ谷で食べた、

ブリックは美味しかったが

夕まぐれの中野「ブリック」は命涸れ果てていた。

哀しむべし。

 

この界隈は似たような裏路地が幾重にも重なり、

おびただしい数の飲食店がひしめいている。

中野サンプラザ、中野ブロードウェイに対抗させて

JCは勝手に中野ミルフィーユと呼んでいるのだ。

 

時刻は16時を回ったところ。

夜の街全開とまではいかなくとも

ポツリポツリと店の灯りが点り始めた。

 

ミルフィーユを踏破しかかった。

16時ちょうどに暖簾の出た、焼きとん「かっぱ」にしようか―。

念のため、最深部のどんつきに足を踏み入れると、

妙に古びた看板にモダンなガラスのドアが

不思議にミスマッチしている店舗あり。

 

看板に大きく「北京」とあるから前身は中国料理店だ。

現在の店名は「PEP」、ワインバーの様相を呈している。

中腰になって立て看板のメニューをのぞき込むと、

気の利いたつまみ類が並んでいた。

 

しかもほとんどの料理にお一人用、お二人用の選択肢がある。

空腹でもない“小食者”には

願ってもないラッキーチャンスの到来だ。

 

ここでC-C-B(Coconut Boys)のドラムス、

笠浩二の裏声が耳朶に響き出したが

最近とみにおとなしくなった大阪の小姑を刺激して

寝てる子を起こすのははばかられる。

よって見送る。

 

とにかく「PEP」にキマリだネ。

 

=つづく=

2021年3月5日金曜日

第2604話 地中海の風に吹かれて (その2)

南阿佐ヶ谷の「地中海料理 Sœurs(スール)」。

瞠目したのはカトラリーだった。

フランスのラギオール社製である。

センス抜群にして、とても扱いやすいのだ。

 

ナイフ&フォークはもとより、

ババガヌーシュをパンに塗りつけるための

バタースプレッダー(通称・バタベラ)まで同社製。

いやはや、お見それいたしやした。

 

30年近く以前のニューヨーク在住時代。

ある夏、休暇でローマを訪れたのだが

行き掛けにアルジェリアの首都・アルジェと

チュニジアの首都・チュニスにそれぞれ3日ほど寄り道した。

チュニスのブリックは前菜のせいか、ずっと小ぶりだった。

スタッフィングはツナと玉子の二択で

玉子をチョイスした記憶がある。

 

Sœurs」のサイズはチュニスの3倍はあろうか。

ツナと玉子が同居し、黒オリーブとケイパーも。

パートフィロで半月状に包まれ、

イタリアンのカルツォーネに似ているが

むしろラヴィオロ(ラヴィオリの単数形)だネ、これは―。

 

クリスピーな皮にリッチな中身がともに美味い。

辛みの強いハリッサはクミンが主張していた。

中東や北アフリカで愛食される、

ババガヌーシュもよい合いの手だ。

 

ストーブでかじかむ手をあぶることたびたび。

ブリックがどんどん冷めてゆく。

まるで互いの性格の不一致に気づいてしまった夫婦の如くに―。

つかの間、地中海の風に吹かれたが

上州のからっ風ならぬ、関東の北っ風にはもっと吹かれた。

 

会計時(2310円)、店名の意味を訊ねたら“姉妹”とのこと。

以前の二人体制から今は独りになったが

その理由や彼女が姉さんなのか妹なのかは訊けなかった。

 

青梅街道を高円寺方面に踏み出してしばらく、

町場の寿司屋の店先に持ち帰り用メニューボード発見。

珍しい“すし屋の玉子サンド”が700円。

煮帆立、ポテサラ、にんじんサラダ、いなり(2個)は

オール300円で、見入っていると

引き戸が引かれ、中から女将さん現る、あらわる。

 

J.C.はこういうシチュエーションに弱い。

赤子の手がひねられるようにみんな買っちゃった。

その夜いただいた「宝寿司」の品々を

時間軸を無視して先に報告するとベストは玉子サンド。

ほかも水準に達していたが

煮帆立はかつお出汁の効き過ぎがちと残念。

 

それはそれとして東高円寺で青梅街道を離れ、

庶民的な商店街の坂を降りていきました。

 

Sœursスール)

 東京都杉並区阿佐谷ヶ南1-9-7

 03-6383-1509

 

「宝寿司」

 東京都杉並区阿佐ヶ谷南1-8-6

 03-3311-2233

2021年3月4日木曜日

第2603話 地中海の風に吹かれて (その1)

先月、トルコの白鳥と小父さんのおかげで

久方ぶりのトルコ料理に接して以来、

ときどきあちら方面の味が恋しくなる。

心の片隅で眠っていた赤ん坊を起こしちゃったみたい。

 

今回出向いたのは杉並区、メトロ丸の内線・南阿佐ヶ谷。

一昨年夏、JR阿佐ヶ谷駅から続くアーケード、

パールセンターの「らぁ麺 いしばし」で塩らぁ麺のあと、

パール街の奥のすずらん通りで見つけたのが

「地中海料理 Sœurs(スール)」だった。

 

普通のサイズを半分にカットした、

真四角のショップカードが店頭にあり、

珍しさに惹かれてポケットに1枚キープした。

それを思い出しての訪問である。

 

2月一番の寒さと予報された日。

コンパクトなメディターレニアン・ビストロは

コロ助による入店制限もあり、中はいっぱい。

テラスに2卓(二人掛け&四人掛け)あって

「そちらなら?」と女店主がつぶやく。

 

北風ピューピューの店外はごめんこうむりたいが

乗りかかった船だ、思い切って着座する。

彼女、すぐにガスストーブを運んで来てくれた。

 

4種あるランチメニューを紹介しよう。

A―ファラフェル(ひよこ豆のコロッケ)

B―チュニジアンブリック(揚げラヴィオロ)

C―ムサカ(ナスとミート&ベシャメルソースの重ね焼き)

D―エビ&レモンのクリームパスタ

 

Bと一緒にギリシャのビール、ミソスを通した。

オリンピック・ブリュワリーの手になる、

ヘレニック(古代ギリシャの)ラガーの原料は

麦芽・ホップ・麦芽糖・水。

好みのスッキリタイプでアルコール度数は5%。

 

ほどなく外国人カップルが現れてテラスの隣りへ。

イタリア語を話す二人の注文はともにミソス&Bセット。

したがって寒風下の三人は

みな同じものを飲み食いすることとなった。

 

それにしても時間がかかり過ぎるなァ。

注文から25分後、ようやく配膳された。

皿には主役のドデカいブリック(チュニジアの国民食)。

これには大きくカットされたレモンと

ハリッサ(チュニジアの唐辛子ペースト)が添えられ、

サイドにババガヌーシュ(焼きナスと胡麻のペースト)。

そして自家製パンのセットである。

 

思わずブリックのサイズに目を見張ったが

濁りのない、つぶらな両の眼(まなこ)は

オー・マイ・ガッ!

さらなる見開きを余儀なくされたのでした。

 

=つづく=

2021年3月3日水曜日

第2602話 日比谷の地下から 銀座の地下へ (その3)

“すみませんうちわ”でひとしきり笑ったあと、

見上げた壁の貼り紙は“自撮り棒あります”。

こんなんまで用意してんのかい。

ハハハ、いたれりつくせりでんな。

 

オンナばかりでオトコはわれ一人の「ティーヌン」。

み~んなお一人様である。

タイ料理となれば、圧倒的に女性なんだネ。

孤独のグルメを楽しむオッサンなんてまず見かけない。

 

もともと日本女性は

外国料理の受け入れや外国人との結婚に対し、

オトコよりずっとオープンで進歩的。

食文化や家族制度に封建的なオトコは遅れてるネ。

 

それはそれとして、生春巻の詰め物は

海老、錦糸玉子、米粉、レタス、きゅうり、にんじん。

当然、ソースにはJ.C.があまり得意としない、

ナンプラーが使われているが、それほど気にならない。

フツーに美味しくいただいた。

 

タイの象さんから日本のドライにチェンジして

タイ風焼き鳥のサテーを鳥・豚1本づつ追加した。

すると・・・何やらへんてこなのが来たヨ。

 

タレというか、ヒタヒタのソースの量が半端じゃない。

居酒屋の焼き鳥のタレの10倍はあるな。

そして唐辛子の種だろうか?

白い粒々がずいぶんと投入されている。

従ってめっぽう辛いんでやんの。

 

花形の飾り包丁が入ったにんじんが添えてあり、

これをヘリポートに見立て、串から外した鳥と豚を

少しづつその上に着陸させてはみたものの、

肝心の本体がともに焼き過ぎ。

これじゃ入れ歯の人は硬くて歯が立たないヨ。

 

それはそれとして昭和36年、日活の正月映画に

裕次郎主演の「街から街へつむじ風」があった。

この日のJ.C.は強風のせいで

「地下から地下へつむじ風」もいいところ。

 

ちなみにデュエット曲の定番、「銀座の恋の物語」は

この映画の挿入歌として世に出た。

当時、流行っていた「東京ナイトクラブ」がモチーフの、

言わば二番煎じだが、あまりのヒットぶりに翌年、

映画「銀座の恋の物語」が制作されたのだった。

 

夕食後、DVDで観るとしようかな。

いつものヒロイン、浅丘ルリ子に加え、

江利チエミにジェリー藤尾と、共演者もユニーク。

今日のJ.C.は「銀座の食の物語」だったしネ。

 

「タイ屋台料理 ティーヌン」

 東京都中央区銀座5-1銀座ファイブB1

 03-3569-0365

2021年3月2日火曜日

第2601話 日比谷の地下から 銀座の地下へ (その2)

日比谷シャンティ地下の「しまね館」をあとに

まだ腹五分目がいいとこにつき、即もう1軒イケる。

地上に出たら目の前の香港から上陸して来た、

飲茶ハウスに長蛇の列、強風下にご苦労なこってス。

 

あらためてシャンティを振り返る。

かつて此処には日比谷映画と有楽座、

ロードショー劇場が2館もあったのだ。

若き日のデートの定番、はて、何度訪れたことだろう。

 

それにしても風がヒドいや。

有楽町のガードをくぐり、

ビヤホール「ニュートーキョー」の前に出たところで

メトロ丸ノ内線の入口に吸い込まれ、

銀座ファイブの地下街に足を踏み入れた。

 

数寄屋橋とコリドー街を結ぶ地下通路には飲食店が並び、

はるか昔、リーマン時代はたびたびお世話になったが

それ以来、ホンの数回しか利用していない。

大風のおかげもあり、ここで遭ったが三年目、どこかに入ろう。

入ろうとは思ったものの、

なじみだった中国料理屋もとんかつ屋もすでにない。

 

結局は薬局、「タイ屋台料理 ティーヌン」に突入。

タイ娘と思しきウエイトレスに促されたテーブルに落ち着き、

あたりの様子をうかがうと、いやはや女性一色じゃないのっ!

長いこと入ってないが銭湯の女湯に迷い込んだ心持ち。

おそるおそる入口を振り返ったら、

レジはあっても番台がなかったので一安心の巻である。

そうだ、生春巻きでも食うとしよう。

 

さて、ビールの銘柄は・・・生も瓶も好みでニッコリ。

ニッコリはしたが何故か気まぐれ心につまづいた。

タイのビールが2種揃っていたのだ。

シンハ(ライオン)は重くてコクがあるため苦手。

チャーン()は軽めすっきりタイプで好き。

生春巻(ポピア・ソット)Sサイズとともに通した。

 

届いたチャーンをトクトクやり、

口元に運んだとき、卓上の団扇(うちわ)に目が留まる。

この寒いのに何で団扇なんか置いとくんだヨ。

客はいつもJ.C.みたいに温厚な性格の持ち主ばかりじゃないぜ。

アラを見つけちゃイチャモンつける、タチの悪いのもいるんだぜ。

トラブルの元じゃないのかえ?

世の人はコレをウチワもめと呼ぶんだヨ。

 

ん? 何だって・・・ プッ!

団扇の添え書きに思わず吹き出した。

「ご用の際は“すみませんうちわ”を

あげてスタッフを呼んでください」

ハハハ、笑っちゃうねェ、

ハイ、そういたしマスです。

 

=つづく=

2021年3月1日月曜日

第2600話 日比谷の地下から 銀座の地下へ (その1)

晴天なのに風が強い日の昼過ぎ。

最近、都内あちこちで水辺をウロウロするのが

楽しみなJ.C.、日比谷にやって来た。

シンボルの大噴水と二つの池がある、

日比谷公園を散策するつもりだ。

 

ところが、あまりの強風におじけづいた。

雨よりマシだが風もイヤだ。

上った階段を下り戻ってミッドタウン日比谷に緊急避難。

フードホールの「スーザンス」で

ミートボールをつまみにカールスバーグを飲もうか?

 

再びところが、けっこうな密である。

密はともかく子連れ客がかしましい。

一めぐりして地下続きの日比谷シャンティへ。

B2にちょいとオサレな「リンガーハット」がある。

 

ひと月半前、北千住マルイのフードコートで食べた、

「リンガー」のかきちゃんぽんが思いのほかよかった。

Sサイズの存在もうれしく本日のランチはコレにするかな?

銘柄は忘れたけど、ビールもあったハズ。

 

念のためB1をチェックすると、

今まで気づかなかった「日比谷しまね館」に遭遇。

いわゆる郷土物産館で

山海の幸や地酒・地ビール、工芸品が並んでおり、

イートイン・コーナーが設置されていた。

 

物産店でビールを買えば、持ち込み可なので決断。

心の内で長崎ちゃんぽんに別れを告げ、島根よ、こんにちは!

さてさて食事メニューはと・・・ふ~ん、

のどぐろ丼、赤てんカレー、島根茶漬け、それだけじゃん。

 

赤てんは食紅で色付けされた練り製品。

かまぼこがカレーに合うとは思えんし、

昼間から茶漬けを食べる習慣はない。

もっとも和食店の鯛茶・まぐ茶は別物だがネ。

消去法でのどぐろ丼、しかもSサイズがあり、ありがたし。

 

松江の地ビール、ビアへるんピルスナーの350ml缶(550円)、

のどぐろ丼小(700円)の食券を買い、中へ進むと

8席ほどのカウンターはほぼ満席。

先刻のフードホールより密度が高い。

 

地ビールでもピルスナーだからわりとスッキリ。

小ぶりののどぐろは塩のみで調整された袋詰め。

物産コーナーにも何種類かあった。

白飯に数枚並べられ、塩味のタレがかかっている。

小ねぎ、針海苔、チューブわさびが添えられる。

 

高級魚の味わいはキス、あるいはカスゴに似ており、

まずまずながら、より美味しく食べる方法は

軽く酢で〆て、酢めしに並べ、

おろし立ての本わさびをあしらうのが理想だ。

 

殊に島根県には匹見や津和野など、

良質の本わさの産地がいくらでもある。

静岡、長野に比して東日本での知名度が低いだけに

ぜひともアピールしてほしいものだ。

それが郷土物産館の重要な使命でありましょう。

 

=つづく=

 

「日比谷しまね館」

 東京都千代田区有楽町1-2-2日比谷シャンテB1

 03-6457-9404