2024年11月12日火曜日

第3665話 乗り越しの おかげで昔を 思い出し (その3)

ジイさんのチャーシューメン着卓。
どんぶりを抱えたはいいが
歯もなけりゃ、入れ歯もないようで
フンガ、フンガと歯茎で噛んでいる。

外国人の青年が来店して
われわれの間に割って入った。
スマホでオバちゃんにシューマイを発注。
どうやら下調べをしてきたらしい。
何も付けずにパクリとやったが
そのうち醤油を使い出した。

お節介なJ.C.、ここで見るに見かねて
英語で話しかけた。
「ストレンジ・フード、ダヨネ?」
「エッ? イエ、美味シイデス」
「ドッカラ来タノ?」
「ポーランド、クラクフデス」
クラクフは彼の国の古都。
言わば奈良か京都みたいな存在だ。

「旅行カナ?」
「日本ニ友人ガ・・・」
「ガールフレンド?」
「イイエ」
「ジャ、ボーイフレンド?」
「オー・ノー! ともだち、ともだち」
LGBTの仲間でないことを主張するが如く、
色を成して否定されたが、ともだちは日本語。

初めての欧州旅行の帰途、
ウィーンからモスクワ行き列車に乗った際、
チェコのプラハとポーランドのワルシャワを
トランジットしたことや、ロンドン滞在時に
フラットのランドレディ(大家)が
クラクフ出身だったことなど語った。

「お勘定お願いします」
「こちらもお願いします」
立ち上がった彼の肩をポンとたたき、
「Have a nice trip !]
「アリガト、ゴザイマス」

かっぱ橋本通りを上野に向かって戻る。
ちょいと来ない間に通りの「キッチン城山」も
「ときわ食堂」も閉業していた。
心に淋しさだけが降り積もる。

先日「昔のパン屋で買ってます」(3635話)
紹介した東上野の「シミズパン」を通りすがる。
せっかくだから何か買っていこう。

大好きな野菜パンはすでに売切れ。
代わりに野菜サンド(ポテサラ&きゅうり)と
一つだけ残っていた三色パンを購入。
三色はこしあん・チョコレート・あんずジャム。

袋をブラ下げて歩きながら思い当たった。
「来集軒」も昭和25年創業なら
「シミズパン」も同じ年じゃないか!
こんな奇遇は世田谷や杉並など
山の手じゃ絶対にあり得ない。
上野・浅草ならではなのだ。
単なる偶然とは思えぬ男が一人、
かっぱ橋本通りに立ち尽くしておりました。

=おしまい=

「来集軒」
 東京都台東区西浅草2-26-3
 03-3844-7409

「シミズパン」
 東京都台東区東上野6-27-7
 03-3841-1862