2018年9月10日月曜日

第1955話 キッカケはまぐろすみそ (その2)

荒川区・町屋の「なり升」は
めし処という雰囲気ながら
小料理屋の風情も濃厚に残している。
まぐろすみその実態を確かめついでに
実食するつもりで来たものの、本日はまぐろが不在。
いや、これからも再開する予定はないらしい。
それならメニューの短冊を外せばよさそうなものだが
何せ、ご夫婦揃ってかなりの高齢だから面倒なのだろう。

さて、まぐろ亡きあと、
山芋や玉子じゃもの足りないので
ビーフにターゲットを絞るしか手立てがない。
とにかく黒毛和牛が一律千円のサービス価格だし・・・。

しょうが焼きはそのまま生姜だろう。
スタミナ焼きはニンニクだろうか?
耳慣れない”あおりなべ”だけは
想像がつかず、訊かなきゃ判らん。
遠慮がちに伺うと、女将応えて曰く、
「生玉子が苦手なお客様用にお鍋でとじるんです」―
なるほど、そういう御仁はいるかもなァ。
ベツに外国人に限らなくともネ。

オーソドックスにすきなべをお願いした。
ついでに銘柄を確認したうえでキリンラガーの中瓶も。
ビールにはサービスのお通しとして
プロセスチーズの三角切りが2枚付いた。
雀躍はぜずとも素直にうれしい。
老夫婦の人柄が薄いチーズに偲ばれる。

整ったすきなべランチの陣容は
切り落としの牛肉に
豆腐・白滝・ねぎ・白菜・しめじ。
もちろん生玉子。
きゅうり・なす・かぶ・にんじんのぬか漬け。
わかめ・豆腐の味噌碗。
ちょいとオコゲの混じった白飯。
飯は鍋で炊いているのだろうか?

さすがの黒毛和牛も切り落としの、
しかも良い部位ではないから硬いが不満はない。
ただ、味付けが濃いので
溶き玉子にくぐらせてもかなりしょっぱい。
それでもキレイサッパリ完食した。

店内には昭和の匂いも立ち込めて
再訪の際にはゆるりと酒盃を傾けたいところだが
夜の営業がないから晩酌は不可能。
かといって昼飲みで月見とろろやオムレツじゃねェ・・・。
せめてまぐろモノがあったらなァ・・・。
このときだった、とある一軒の酒亭が
記憶の森から浮かび上がったのは—。

=つづく=