2018年9月17日月曜日

第1960話 落胆の人気焼き鳥 (その3)

墨田区・押上の焼き鳥店、
「おみ乃」は無いモノだらけであった。
江戸前の鮨屋に例えれば、
平目・まぐろはあっても
小肌ない、すみいかない、赤貝ない、車海老ない、穴子ない。
ほかにあるのはせいぜい蛸と玉子にかんぴょう巻き。

癇癪持ちの客だったら、つけ台引っくり返すぜ。
いや、カウンターのつけ台はちゃぶ台じゃないから
そんな狼藉はハナからムリだがネ。
とにかくナイナイづくしにあきれ返った。

その後、発注したのは
はつ・血肝・白玉(うずら玉)・つくね・かしわ・波(皮)。
そして締めの鳥スープは自動的に供された。
アルコールは奈良萬冷酒と芋焼酎・壱岐の島ロック。
以上で会計は9千円弱だった。
べら棒とは言わないまでもかなり割高だ。
もちろん不完全燃焼が胸の内にくすぶっている。

鮨屋にせよ、天ぷら屋にせよ、
お好みor おまかせの両面(リャンメン)待ちが当たり前。
近頃は焼き鳥もまたしかりで、いつの間にか高級化が進み、
敷居が高くなったり、席の確保が難しくなったりしている。
客にお好みという選択肢を与えた以上は
それにしっかりと対応する責務をまっとうしてほしい。
最低限の責務が品揃えである。

店にとっておまかせ(コース)はラク。
逆にお好み(アラカルト)は倍の労力が求められる。
いや3倍、いやいや、それ以上かもしれない。
ここにJ.C.がフレンチにおける「カンテサンス」より、
「ラビラント」を評価する理由がある。
真っ当なレストランにはもっとアラカルトを重視してほしい。

あまかせとは客に食事を配給する”給食”にすぎず、
お好みのように食事を提供する”供食”ではない。
この夜、「おみ乃」のカウンターに同席(?)した客は
お行儀よく焼き鳥を食べさせてもらっている若年層ばかり。
あたかも鳥小屋のケージに並ぶブロイラーの如し。
鳥が鳥を食ってどうすんの?
店側にとってこんな客層を手玉にとるのは
赤子の手をひねるも同然、思うツボとはこのことをいう。

期待しただけに落胆も大きいものがあった。
山高ければ谷深し。
あゝ、国破れて山河あり。
障子破れてサンがあり。

来た道を引き返し、「神谷バー」へ。
結局は薬局、振り出しに戻ったワケだ。
一緒に幾度も訪れた思い出の空間で
名残りのグラスをカチンと合わせる。
ふと視界に入った薬指のリングが目にしみた。
人生なんて所詮は
男と女の出会いと別れのくり返しに過ぎない。

=おしまい=

「焼鳥 おみ乃」
 東京都墨田区押上1-38-4
 03-5619-1892

「神谷バー」
 東京都台東区浅草1-1-1
 03-3841-5400