2018年9月28日金曜日

第1969話 時間がとまった商店街 (その1)

半年ぶりにやって来たのは江戸のはずれの江戸川区。
都営地下鉄・瑞江駅の南口ロータリーからバスに乗り、
新町商店街入口で下車した。
ここが本日の目的地なのだ。

時刻は16時半、待ち合わせまで時間があった。
とりあえず土地カンを植え付けようと町をぶ~らぶら。
いや、何とまあ、ノスタルジックなストリートだこと。
第一感は黒澤明の映画「用心棒」だ。
ちょいとばかり手直しただけで
江戸末期の宿場町に変身するんじゃないかな。
三船敏郎と仲代達矢を立たせてみたいほどのもの。
たった15分で商店街の全容を識ることができた。

バスストップに引き返し、相方をピックアップして
大衆酒場「大林」の店先へやって来ると、
1組のカップルが待機していた。
ところが開店の17時を回っても暖簾の出る気配がない。

そこへ現れたのはチャリンコのオバちゃん。
見ず知らずのJ.C.に向かって
「あらっ、今日やってないの?」―
だしぬけに問われてたじろきながら
「いえ、ボクたちも開くの待ってんですがネ」―
チャリンコを停めたオバちゃん、
委細構わず、いきなり引き戸を引いた。

「何だ、やってんじゃん!」―
そのまま店内に足を踏み入れたじゃないか。
「エエーッ!」―
驚いてあとに続くとホントだ、やってんじゃん!
 
店内では10人以上の先客が飲んでおったぞなもし。
中には子連れまでいるぞなもし。
われわれと入れ替わりに店のオネエさんが暖簾を掲げた。
どうなってんのヨ、この店は!
 
しばらく間を置いて注文を取りにきた彼女に
サッポロ黒ラベルの大ジョッキを通す。
なおもブツクサ言ってるわれわれに
隣りの単身客が解説してくれた。

「ここは常連が早めに来て飲み始めちゃうの。
 今日はそんなんが多くて
 暖簾出すヒマなかったんじゃないかな?」
「ハァ、そうなんですか、ご親切にどうも」

納得して突き出しの小皿に箸をのばした。
見た目は単なる小盛りのそうめんだが
ん? 何じゃこれは!

=つづく=