2022年3月15日火曜日

第2971話 峯より落つる滝の音

十条は富士見銀座の「玉屋」を出て

腹はいっぱいなれど、飲み物は別物。

まだまだ楽勝の巻なり。

腹ごなしに歩くとして

北上すれば赤羽、南下なら王子だ。

 

十条・赤羽・王子は軍都・北区の中核。

太平洋戦争を支える武器弾薬が盛んに製造された。

工場は3交代制で24時間稼働。

夜勤明け労働者のために朝から飲める店が多かった。

今でも名残りがあって朝飲みなら北区だ。

 

未だ訪れていないが

JR京浜東北線の東十条と王子の中間あたり、

線路の西側に名主の滝公園がある。

今日はそこに立ち寄ろう。

十条駅前、JR埼京線の踏切を渡り、

上十条から中十条、岸町に到達した。

 

「名主の滝公園」は江戸時代、

王子村の名主だった畑野孫八サンが

屋敷内に滝を造成させ、

市井の民にも開放したのが始まり。

 

その後、「精養軒」が買収して一時は

食堂と水泳場を経営したが戦火で荒廃。

紆余曲折を経て現在に至っている。

 

滝(男滝というそうだ)は思ったより立派。

家の近所にある須藤公園のそれとは

比べるべくもなかった。

小鳥のさえずりの代わりに

島倉千代子の歌声が降ってきた。

 

♪   空にさえずる鳥の声

  峯より落つる滝の音 ♪

 

明治35年に発表された唱歌「美しき天然」は

本邦初のワルツなんだそうだ。

しばし滝の音に耳を澄ます。

汚れた心が洗われる気がするネ。

 

王子の街にやって来た。

この時間ではまだ早かろうと思いつつ、

町のランドマーク「山田屋」に向かう。

 

わ~おっ! 建物が消えちまってるヨ。

何てこったい!

十条の「天将食堂」も閉業したが

「山田屋」よ、お前もか―。

何かあったのかァ?

 

隣りの建物がちょうど工事中。

そこに居た警備のオジさんに訊ねてみると

「『山田屋』は解体が済んだばかり。

  来年には再開するようなこと言ってましたヨ」―

ああ、よかった、よかった。

1年くらいすぐ経っちゃうもんネ。

ザワついた胸を撫で下ろしました。