十条は富士見銀座の「玉屋」を出て
腹はいっぱいなれど、飲み物は別物。
まだまだ楽勝の巻なり。
腹ごなしに歩くとして
北上すれば赤羽、南下なら王子だ。
十条・赤羽・王子は軍都・北区の中核。
太平洋戦争を支える武器弾薬が盛んに製造された。
工場は3交代制で24時間稼働。
夜勤明け労働者のために朝から飲める店が多かった。
今でも名残りがあって朝飲みなら北区だ。
未だ訪れていないが
JR京浜東北線の東十条と王子の中間あたり、
線路の西側に名主の滝公園がある。
今日はそこに立ち寄ろう。
十条駅前、JR埼京線の踏切を渡り、
上十条から中十条、岸町に到達した。
「名主の滝公園」は江戸時代、
王子村の名主だった畑野孫八サンが
屋敷内に滝を造成させ、
市井の民にも開放したのが始まり。
その後、「精養軒」が買収して一時は
食堂と水泳場を経営したが戦火で荒廃。
紆余曲折を経て現在に至っている。
滝(男滝というそうだ)は思ったより立派。
家の近所にある須藤公園のそれとは
比べるべくもなかった。
小鳥のさえずりの代わりに
島倉千代子の歌声が降ってきた。
♪ 空にさえずる鳥の声
峯より落つる滝の音 ♪
明治35年に発表された唱歌「美しき天然」は
本邦初のワルツなんだそうだ。
しばし滝の音に耳を澄ます。
汚れた心が洗われる気がするネ。
王子の街にやって来た。
この時間ではまだ早かろうと思いつつ、
町のランドマーク「山田屋」に向かう。
わ~おっ! 建物が消えちまってるヨ。
何てこったい!
十条の「天将食堂」も閉業したが
「山田屋」よ、お前もか―。
何かあったのかァ?
隣りの建物がちょうど工事中。
そこに居た警備のオジさんに訊ねてみると
「『山田屋』は解体が済んだばかり。
来年には再開するようなこと言ってましたヨ」―
ああ、よかった、よかった。
1年くらいすぐ経っちゃうもんネ。
ザワついた胸を撫で下ろしました。