都電荒川線、またの名を東京さくらトラム。
乗客になったとき、歓びを覚える路線だ。
その日の朝、ミントティーを飲みながら思った。
そうだ、今日はあの線の端から端まで
”ぶらり途中下車の旅”とまいろう。
自宅の前から都営バス・早稲田行きに乗る。
終点で降り、早めの昼めしで腹ごしらえ。
カレー南蛮そば発祥の「三朝庵」が閉じてから
早稲田で一番の日本そば屋「金城庵 本館」へ。
冷たいそば茶が供されたが
「君はあとで飲むからネ」
やさしくささやき、ドライ中瓶を通す。
200円チャージされたお通しは
見るからに出来合いのマカロニサラダ。
おおかた「肉のハナマサ」あたりだろうぜ。
周りは老若男女混ざっているが中若年が主流だ。
「お客様感謝フェア」とやらで 上かつ丼が
1230円 ➡ 980円のサービス価格。
若者はほとんどそっちに走っている。
中退ながら一応、彼らの先輩にあたるオッサンは
珍しいハトシロール(350円)を麦酒の友とした。
ちょいと来ない間に「金城庵」は
シャレたものを出すようになったもんだ。
ハトシというのは海老のすり身を
パンに挟んで揚げた長崎名物。
長崎と言えば、和・漢・洋がコラボする、
卓袱(しっぽく)料理が代表、その流れだろう。
ハトシをエンジョイし、締めはもりそば。
そばはコシきわめて強くとも香りに乏しい。
つゆは町場のそば屋にしてはやや辛口。
そばもつゆも、まあ水準には達している。
熱いそば湯と温(ぬる)いそば茶を一緒に飲み、
荒川線の始発駅(終点でもある)・早稲田へ。
すぐ隣りの面影橋。
たもとに巨大なマンションがおっ勃って
もとい、おっ建って
昔日の面影など微塵もない。
こうして東京の町々は壊されてゆくんだ。
その一つ先の学習院下で下車。
石段を上がって千登勢橋から西島三重子が
♪ 電車と車が 並んで走る
それを見下ろす 橋の上 ♪
と歌った景色で目を和ませ、
鬼子母神の参道を歩いて往った。
=つづく=
「金城庵 本館」
東京都新宿区西早稲田1-18-15
03-3203-4591