2016年2月11日木曜日

第1293話 十年ぶりの中華そば (その5)

今日はアップし忘れたまま出かけてしまい、
先ほど帰宅して気づいた次第であります。
失礼をいたしました。

さて、谷中の「一力」である。
「一力」というと今は昔、元禄の時代、
大石内蔵助ゆかりの茶屋、
祇園「一力亭」(現在も営業中)が脳裏をかすめるが
こちらはラーメンと餃子だけの店舗である。

スポーツ誌を開いたものの、
ろくすっぽ目を通さぬうちにラーメンが出来上がった。
見覚えがあるようなないような、不思議な光景がそこにある。
麺は少なめ、スープは多め、
なんかどんぶりの中で麺が泳いでいる感じ。
表面には細かい油の粒が浮いている。

レンゲは付いてこないから
どんぶりをしっかりと両手で持ってスープを一口、二口。
当然、数滴の油粒が口内に流れ込む。
それがちっともシツッコくない。
むしろアッサリとしている。

飲み下してハッキリ思い出す。
そうだった、この味であった。
こみ上げる懐かしさにしばし身をまかせる。
ややちぢれほぼ真っ直ぐのしなやかな麺も
回顧する歓びに拍車をかける。

5分とかけずに読了ならぬ食了をはたす。
ちょうどそのとき、背後にガラス戸が開く気配あり。
中高年の女性の声で
「あら、お父さん具合悪いの?」
女将さん応えて
「いえ、今奥だけど出てるわヨ」
察するに店主はときどき体調を崩すらしい。
前述したように老け込み方が相当だったからねェ。
この店もあと何年営業を続けることができるのか
知れたものではない。

声しか聞こえなかったが
常連客らしき女性はこれから病院へ行く旨残し、
何も食べずに立ち去った。
こちらも500円玉と100円玉を一つづつ手渡しながら
「ごちそうさま!」

その夜、PCを開き、エクセルの訪問店リストに
本日の「一力」を記録していてビックリ。
何と前回の訪問は丸十年前の一月。
栃東が幕内最高優勝を果たす数日前であった。
そして今回の訪問は琴奨菊優勝の数日後。
「一力」と「一力」のあいだに二人の優勝が
ピタリと収まってしまう。
こんなことってあるんだネ。

十年経ったらもう店はあるまいと思い、
この二日後、またラーメンを味わいに出かけたのでした。
十年ぶりのあとは二日ぶりでござんした。


=おしまい=

「一力」
 東京都台東区谷中7-18-13
 03-3821-2344