或る夜、布団にもぐり込んで思った。
そうだ、明日は一人で花見をしよう。
寝つくまで計画を練り上げた。
翌朝、天気予報は曇りがちだが雨は降らなそう。
曇り空の下、花の雲を愛でるのもまたよろしき哉。
孤独の花見につき、無聊を慰めるために趣向を凝らした。
イヌやキジとはいかぬが供を引き連れて行こう。
そこからの行動は素早い。
まず、灘の銘酒、櫻正宗の大吟醸ワンカップを探すと、
内神田の「藤田酒店」がヒットした。
神田なら行き掛け、ルート的に都合がよい。
即電話を入れて在庫を確かめた。
続いて近所の「御菓子司
むさしや」へひとっぱしり。
一つだけじゃキマリが悪いから桜餅を二つ購入した。
関東風のこしあんをうどん粉の薄焼きで包んだヤツ。
関西風の道明寺もよいが酒の友は断然こっちだ。
隅田川河口の佃島に向かった。
都内に桜の名所は数あれど、J.C.が最も好むのは此処。
桜の木が少ないぶん人の数も少なくて、それが一番。
最寄りはメトロ・月島駅ながら築地から歩くことにした。
距離的に大して変わらないしネ。
階段を軽やかに上がり、地上に出たところで
あっちゃ~、やっちまっただヨ。
神田で櫻を買うの忘れちまった。
バッカじゃないのっ! こりゃ戻るしかない。
でも、昇ってきた階段をそのまま降りるのはシャク。
近場で昼めしを食ってからにしよう。
一昨年の秋に来た、品のある町中華「萬福」に入店。
前回、食べそびれたポークライスと
サッポロ赤星中瓶をお願いした。
ケチャップライスと炒飯の中間みたいな味付けがいいんだ。
ところが出来上がった代物は昔とはまったくの別物。
どこにでもあるチキンライスの鶏肉が豚に代わっただけ。
今は昔、東銀座の中華そば御三家は
当店、馬券売り場の隣りの「共楽」、
そして歌舞伎座裏にあった、今は無き「味助」。
あゝ、昭和は遠くなりにけり。
傷心を引きずり、神田の「藤田酒店」へ。
ワンカップをゲットしたところで雨が降りだした。
予報は終日曇りのハズ。
最近の気象庁はよく外すねェ、ジッサイ。
まっ、悪党が大臣の座にしがみついてる、
総務省なんかより、ずっとずっとマシだがネ。
=つづく=
「萬福」
東京都中央区銀座2-13-13
03-3541-7210