2024年11月27日水曜日

第3676話 「流れる」に 涙が流れそう

今日は神保町シアターで
成瀬巳喜男監督の「流れる」(1956)。
原作は幸田露伴の娘の幸田文。
製作は東宝である。

女性映画の旗手、成瀬の名に恥じぬ、
豪華な女優陣に圧倒されてしまう。
田中絹代・山田五十鈴・杉村春子・
高峰秀子・岡田茉莉子・中北千枝子。
主役級のオンパレードと来たもんだ。

J.C.はこの作品をこよなく愛する。
廃れゆく花街、滅びゆく色街、
柳橋の芸者置屋が舞台で
此処は J.C.が十年余り暮した場所なのだ。
懐かしさに涙が流れそう。

NYから帰国後、住まいを浅草と決め、
いろいろ物件を当たってはみたものの、
四半世紀前のエンコの街に
気に染まるヤサは見つからなかった。

それならと柳橋の住宅付置義務ビルに入居。
商業ビルの階上に住居をいくつか設け、
そのおかげで税金が軽減されるのが
住宅付置義務のしくみである。

当時の勤務先は日本橋、遊興先は浅草。
ちょうど中間が柳橋でいずれにも好都合。
柳橋の最寄り駅は浅草橋なんだが
浅草と日本橋の合成語と思われるくらい。

映画の置屋はスタジオの大掛かりなセット。
現地ロケもふんだんに織り込まれている。
置屋の前の通りがたびたび映されて
実際の柳橋にもよく似た小路があるが
映画の道幅は断然広くてセットと判る。

さすがにJR総武線の高架は
実写に頼るほか手立てがない。
老舗商家の袖看板もいくつか見える。
天ぷら「江戸平」は閉業したが
うなぎ「よし田」、和菓子「梅花亭」は
現存して営業を続けている。

隅田川を意味する、
「流れる」のタイトルは原作のまま。
成瀬はのちに高峰秀子&加山雄三のコンビが
新鮮にして秀逸な傑作「乱れる」を撮るが
幸田文に「流れる」なかりせば
「乱れる」のタイトルは生まれ得なかった。

「流れる」は今日の夜、明日の夕方、
明後日の夜と計3回の上映が予定されている。
思い入れの強い J.C.ならずとも
本作は貴方の心に深く刻まれましょう。
おすすめします。