2014年6月5日木曜日

第853話 金がなくても金町は・・・ (その3)

金町は昌明通り、日本そばの「白樺」で腰が宙に浮いたところ。
何となれば、壁の品書き札に食したいひと品を認めたからだ。
それは、変わりそばのよもぎ切り。
肉せいろと小天丼のセットを注文したが、
季節のよもぎ切りに遭遇したからには看過できぬものがある。
当然、チェンジ、チェンジであろう。

しかし、ここでちょいと考えた。
この日、目覚めてから麦茶を飲んだ。
その後、出先でアイスティーをいただいた。
でも、食事は取っていない。
そう思うと、一気に空腹感がつのってくる。

そばだけではもの足りない気もするし、
かといってどんぶり物を追加したら、
今度は食べきれないだろう。
よって、オリジナル・オーダーの据え置きを決断した。

それにしても気になるなァ、よもぎ切り。
ご丁寧に貼り札には”丹沢山麓よもぎ使用”とあったのだ。
そういえば”男はつらいよシリーズ”で
三崎千恵子扮するオバちゃんが嘆いていた。
「よもぎなんか昔は江戸川の土手でいっくらでも取れたのにねェ」―
それが今は丹沢でっか!

まずセットの片割れ、肉せいろが運ばれた。
南蛮ねぎとともにイベリコ豚のスライスが
熱いつゆに浮遊している。
「熱いトタン屋根の猫」ならぬ、「熱い肉せいろの豚」である。
部位は脂ののったバラ肉だろう。

そばを少々、箸先でつまみ上げ、そのまま口元に運ぶ。
噛み締め感のある好きなタイプだ。
これなら熱々のつゆに負けることもない。
いざ、食してみると、
その美味に舌の鼓がポンポコポンのポン!
いや、旨いのなんのっ!

数年の時を経て、
たまたま気まぐれに立ち寄った金町で
思いがけない佳店に出会った。
これを僥倖と言わずして何と呼ぼう。

小さめのどんぶりに
小海老の天ぷらが5本散らばった天丼だって
かなりのレベルに達している。
朱鷺(とき)色の尻っ尾までしっかり食べちゃった。
いや、満足、まんぞく。

そば湯を飲み干し、柴又へと向かう。
そして小一時間、寅さんの町をぶらついたのでした。

=つづく=

「白樺」
 東京都葛飾区東金町3-17-12
 03-3607-3684