2014年6月9日月曜日

第855話 金がなくても金町は・・・ (その5)

第一感は立石であろうヨ。
あとは町屋に曳舟あたりだろうか。
でもって、立石へ行くことを決意した。

柴又駅前でしばし思案投げ首。
電車ならワン乗り換えで15分もあればじゅうぶん。
はて、どうしたものか・・・。

駅前広場に面した居酒屋「春」の看板を見ながら考える。
ここを何回か訪れたのはもう10年以上も前のこと。
映画撮影の合間を縫って
渥美清が納豆オムレツを食べたというエピソードを持つ店だ。
広場には渥美扮する寅さんのブロンズ像が立っているが
この銅像にはどうしてもなじめない。
強面(こわもて)に過ぎてテキヤというよりヤクザに近く、
寅さんの温かみがこれっぽっちも伝わってこない。

結局、決断した。
「よお~し、歩いたろうじゃないか!」―
そうして徒歩にいそしむこと1時間弱。
立石に入城の巻である。

町のランドマーク、「宇ち多゛」の前に行列がない。
以前はオモテとウラ、別々のラインが並んでいたが
どうやらウラ一本に絞ったようだ。

金町のそば屋「白樺」ではビールを我慢したし、
柴又の参道でも誘惑を振り切った。
そのうえ、これだけの道のりを踏破したのだから
ノドはカラカラ、古代ローマのカラカラ浴場も真っ青で
すでに限界を超えている。

脇目もふらず、一直線に目指したのは「ゑびすや食堂」。
好みの銘柄の中ジョッキを一気に空けた。
つまみは2品。
チョイ焼きたらこと蝗の佃煮である。
エッ? たらこは判るが蝗ってなんだ? ってか?
蝗はイナゴのことでした。
そう、あのバッタの一種のネ。

「ゑびすや食堂」には1時間もいたろうか。
ジョッキを3杯飲んでのお勘定ではあったが
何だかまだもの足りない。
踏切を渡って線路の反対側、北口に回った。

”立石のポンパドール夫人”として名高い女将のいる「江戸っ子」へ。
ここではデンキブランを2杯やっつけた。
やはりつまみは2品。
うずら玉子と野菜のピクルス、それにもつ煮込みだ。
さんざ歩いたせいか、ドッと疲れが出て睡魔にも襲われる。

酒場のカウンターで居眠りするわけにもいかず、
あとは電車で真っ直ぐ帰宅。
その夜の眠りの深かったこと。
飼い猫に起こされるまでグッスリであった。

=おしまい=

「ゑびすや食堂」
 東京都葛飾区立石1-15-11
 電話ナシ

「江戸っ子」
 東京都葛飾区立石7-1-9
 03-3694-9593