2014年6月20日金曜日

第864話 背肝も肝も肝のうち (その3)

神楽坂の気に入り店、焼き鳥の「駒安」。
入谷の「鳥昭」のように
ありとあらゆるパーツが揃っているわけではない。
でも、勘どころをしっかりと抑えているのがありがたい。
ちょいと立ち寄って軽くつまむには打ってつけの店舗なのだ。
したがって、この店に長居をしたことは一度もない。

殊に必ず1本、ときにはお替わりをして2本、
それが特筆の背肝だ。
エッ? そんなら3本いけばいいじゃんか!ってか?
いえ、そりゃいけません。
何となれば、3本食うと鼻血ブーだかんネ。

その一品がコレ。
串打ちされてムッチムチ
背肝は肝の一種だが
肝は読んで字の如く肝臓のこと。
背肝は肝臓に非ずして腎臓なのだ。
如いて表現するならば、
鳥のレバーと、うなぎの肝の中間といった味・食感を持つ。

J.C.は牛・豚・羊・鶏を問わず、とにかく肝が大好き。
それ以上に好きなのがチキンの背肝。
複雑な食感と食味が生ビールにもコップ酒にもピタリと合う。
正直言って、高価なうなぎの肝より好きだなァ。

背肝の美味に初めて遭遇したのは小学5年生か6年生の頃。
当時は板橋区・弥生町に住んでいた。
最寄り駅は東武東上線・中板橋である。
家族の誰かの誕生日だったか、
あるいはクリスマス・イヴだったか、
記憶は定かでないけれど、
ある夜、父親がローストチキンをぶら下げて帰宅に及んだ。

往時、中板橋の駅前商店街には
焼き鳥のチェーン店として名を馳せた「鮒忠」があった。
どうやら父はそこで購入してきたらしい。

あの時代、牛のすき焼き、豚のカツレツ、ローストチキンは
間違いなく一般庶民にとって大のご馳走。
こんがり焼き上げられた丸一羽のニワトリに
ファミリー一同の目は光り輝いた。

胸とモモを取り分け、みんなニコニコ笑顔でかぶりつく。
近頃は年に一度も利用しない「鮒忠」なれど、
何回かお世話になり、そのたびにおいしい思いをしたのだった。

食卓の真ん中にチキンの亡骸(なきがら)が横たわっている。
意地汚いJ.C.が何気なく取り上げた骨の奥で
たまたま発見した背肝であった。
がらんどうのあばら骨のどん詰まりにあった小さな肉塊、
それが背肝との出会いだった。

こわごわつまみ出して味わい、その美味に驚く。
以来、鳥の背肝は大好物となって早や半世紀が経過。
この世に存在する肝のうち、背肝に勝る肝はない。

=おしまい=

「駒安」東京都新宿区神楽坂1-1
 03-3260-3549