2018年4月5日木曜日

第1843話 ひとり墓場で 観る花は (その2)

降り立ったのはJR日暮里駅。
北口改札を出て御殿坂を上っていった。
坂は台東区と荒川区の境界に当たり、
まっすぐ行けば、”夕焼けだんだん”に通ずる。

ここからそれほど離れていない文京区・白山に
同名の坂があり、
あちらは小石川植物園の脇の歩くからに陰気な場所。
夜遅くに女性が独りで歩ける道ではない。

日暮里・御殿坂の途中にあるコンビニで
まずはペットのお茶を購入する。
ハハ、そんなこたあ、あるハズもなく、
買い込んだのは缶ビールでありました。

さっき来た坂を戻り下って
谷中霊園の北端から入園した次第なり。
ソメイヨシノが生まれた地、
旧染井村にある染井霊園よりも桜は断然、谷中霊園。
最近はずいぶん改善されたようだが
あちらは霊園内の管理、手入れが行き届いていない。
殊にトイレ周りは目を覆うばかりであった。

春の陽射しを受けて花々が光り輝いている。
どこか近くで鐘の音でもゴーンと響けば
芭蕉の句を思い出させて風雅を増すところなれど、
都内随一の寺町にかような気を利かせる寺は
ひとつとしてなかった。

代わりに浮上したのが前話で紹介した「山谷ブルース」。
そして瞬時に出来上がったのが
例によってくだらぬ替え歌だ。

  ♪   ひとり墓場で 観る花に
     かえらぬあの娘が いとおしい
     咲いて 咲いてみたって
     なんになる
     今じゃ谷中に ふる花よ  ♪

路を歩んで駄詞は頭をかけめぐる

で、ありますな。

焼失した五重塔跡の桜並木は葉桜になりつつあった。
上野のお山のすぐ近くなのに
花見を楽しむ人々の数はさほど多くない。
花の下で催す宴よりも桜並木をそぞろ歩くのが
正しい花の愛で方ではあるまいか。
さて、さて、今宵はいずこで独酌に及ぶとしますかの。