2018年4月12日木曜日

第1848話 ヒョンなことからクスクスを (その3)

ちょいと変わった店構えのバー「桃と蓮」。
最寄りは地下鉄千代田線・根津駅だが
地番は台東区・谷中1丁目である。
店主と途切れとぎれの対話を交わすうち、
ラムと野菜のクスクスが出来上がった。

カレーライスみたいに
シチューとクスクスが一緒盛りになっており、
そこそこのボリュームがある。
骨付き仔羊とにんじん主体の野菜がたっぷりだ。
明るいうちから重いものを口にしたくないが
空腹を抱えた遅めのランチにつき、この程度はいいだろう。

プレートを差し出すとき、
「辛子です」
言いながら店主が添えてくれたのは
紛れもないハリッサである。

北アフリカ、特にチュニジアで重用される、
赤唐辛子とオイルをペースト状にしたものだ。
コリアンのコチュジャンに似ているが甘みはなく、
赤唐辛子の辛みがダイレクトに口中を襲う。

まずはハリッサを使わずにクスクスの前半戦。
一口すくうと、いや、いや、熱々である。
熱すぎて味がよく判らないくらいだ。
ここで思い出したようにビールをお願い。
キリンラガーの小瓶だった。
つい数日前、久々に国産ビール(スーパードライ)の
小瓶を飲んだばかりだから連荘だネ。

ビールで舌を鎮め、再びフォークを手に取る。
今度は味蕾が味覚を正確に感じ取った。
うむ、うむ、コイツは旨いや。
少々、冷めてきたのをいいことに
ハリッサを加えて賞味する。
やはり、この香辛料があるとないではずいぶん違うネ。

骨付き仔羊はよく煮込まれて骨離れがよい。
高級な、いわゆるラムチョップの部位ではなく、
おそらくスネだと思われるが
クスクスにはむしろこちらのほうがマッチしている。

靴屋は無駄足だったけれど、
おかげで懐かしくも美味しい一皿に遭遇できた。
店主とはさらに対話を重ね、
次回は夜にバー利用することを約して店をあとにした。
支払いは1500円也。
充実のレイト・ランチでありました。

=おしまい=

「桃と蓮」
 東京都台東区谷中1-1-27
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