今は昔、中央通り&江戸通りが交わる室町3丁目交差点近く、
建物全体に蔦(つた)のからまるカレーハウスがあった。
袖看板に「インドカリーライス」とあるだけで店名はナシ。
界隈のOL・リーマンは「つたカレー」と呼んだ。
仕方なしにネ。
その復刻版を出す店があると聞いたのは最近。
とある午後の昼下がり、軽い腰をスッと立ち上げた。
向かったのは中央区・新川。
日本橋川・亀島川・隅田川に囲まれた、
中洲のような土地柄である。
江戸の昔、日本各地から米俵が集積したのは蔵前。
代わりに酒樽が集まったのはここ新川。
20年ぶりの「ラティーノ」は無事に生存していた。
記憶はうっすら残っていても
店内を懐かしむほど覚えちゃいない。
メニューに目当てが見当たらず不安になったが
壁にデッカく張り出されていた。
復刻版 つたのからまる 三越前インドカリー
辛口1100円 極辛1200円
極辛に挑戦してみたいけど、途中で必ず後悔する。
おとなしく辛口をお願い。
おう、おう、懐かしいたたずまい。
豚肉・じゃが芋・にんじんがゴロンゴロン。
フォーク&スプーンを手にしたとき、
ペギー葉山の「学生時代」が頭の中で鳴り出した。
歌詞をちょいとアレンジさせてもらって・・・
♪ つたのからまるハウスで カレーを食した日
米多かりしあの皿の 想い出をたどれば
なつかしい味と香り 一つ一つ浮かぶ
重い事案を抱えて かよったあの店
春の日の食卓の ポークとクミンの匂い
桜の散る窓辺 リーマン時代 ♪
(作詞:J.C.オカザワ)
一匙すくって口元に運べば
ん? 旨いじゃないかァ、似てはいても三越前より旨いくらい。
クラッシュド・チリ(砕かれた赤唐辛子)のせいで相当辛い。
赤い模様がちりばめられ、これは三越前になかった光景だ。
コールスローみたいなキャベツサラダが恰好のフォーク休め。
福神漬け、皮付き大根漬け、たくあんもどき。
3種の大根の助けを借りながら食べ終えた。
会計時、店主と言葉を交わす。
レシピをゆずり受けたわけではなく、
思い出し出し復刻させ、かれこれ3年になるという。
だのにこのハイレベル、いやはや、あんたはエライ!
店名の通り、夜にはラテンアメリカ料理を供するという。
帰り途、気にするところあって三越前まで歩いた。
つたのからまるハウスは痕跡すらとどめず、
そこには三井アーバンホテルが建っていた。
♪ ナンタ・ルチーア! ♪
「ラティーノ」
東京都中央区新川2-7-7
03-3206-2726