2025年2月6日木曜日

第3727話 ”わかれ” が切ない 日比谷の食堂

先週の第3722話でふれた、
日比谷の食堂「いわさき」。
地番は有楽町一丁目だが有楽町駅の有る、
晴海通り北側はそれで良しとしても
こちら南側は日比谷と呼びたい。
公園はじめ、シャンテもミッドタウンも
日比谷を名乗っているしネ。

懐かしくなって13年ぶりに訪問した。
店頭の小さな貼り紙が微笑ましい。
(イワシフライ定食 850円)
 ◎美味だぜそこのところよろしくね
(さば味噌煮定食 900円)
 ◎すこし美人の娘が作っています

ハハハ、昔はこんなん無かったヨ。
その日の日替わり定食がさば味噌煮。
半量なので割安価格(750円)になり、
少食派には打ってつけ、即決した。

カウンターの右端に着くと
懐かしの女将サンが背後に立つ。
「日替わりお願いします」
「アッ、日替わり終わっちゃったの」
「それじゃ ”わかれ”をー」
「あら! 昔のお客さん?」
「ええ、初めて来たのは50年前ですヨ」
「ん、まァ!」

”わかれ”を通すたびに
「昔のお客さん?」と訊かれるんだ。
今ではみんなかつ丼定食を
頼むようになって”わかれ”は絶滅した。
厨房にはこれまた懐かしい親父サンと
娘がいたがマスクをしていて
少し美人かどうかは不明のまま。

「アッ、あと、ビールください」
「あら、ウチはごはんだけなんですヨ」
以前はキリンラガーがあったけどなァ。
まっ、このあと近所の立ち食いそばで
缶ビールを飲むからいいとして
いつの間にやら営業は昼だけになった。

かつての名代、”わかれ”が調いました。
う~ん、秘伝の味付けの手法が未だに
判らないが美味さは変わらない。
薄い豚肉も往時のままながら
今日はヤケに肉質が硬い、まっ、いいかー。

でもネ、ビールが無いんじゃ今日でお別れ。
再訪はもうないだろう、哀しいねェ。
切なくなった途端に裕次郎が歌い出したヨ。

♪  逢えば短かい 夜だから
   何も云わずに 踊ろうよ
   淡い灯りが 又ひとつ
消えてゆく
   別れが切ない ナイトクラブ
   恋のクラブよ    ♪
  (作詞:池田充男)

「二人の世界」は1965年のリリース。
当時の歌謡ベストテンにおいては
20週連続1位を記録する大ヒットとなる。
池田は新宿の音楽喫茶「ラ・セーヌ」で
鶴岡雅義のレキントギターに魅せられ、
そこからつき合いが始まり、
東京ロマンチカの生みの親になった。

「いわさき」よ、さようなら。
ん? ううん、やっぱりまた来るネ。

「いわさき」
 東京都千代田区有楽町1-6-9
 03-3591-4740