2013年7月17日水曜日

第622話 真夏の煮込み (その2)

都内で所用を済ませてきた盃友と待ち合わせたのは
地下鉄銀座線・末広町駅。
神田と上野広小路の間だが、JR秋葉原からは至近だ。
数分歩いて電器屋の群れの中にポツリとある、
目当ての「赤津加」に到着した。

この店は何と言ってもコの字のカウンターがいい。
テーブル席に落ち着くと魅力が半減してしまう。
気配りの行き届いたオネエさんの客あしらいに
ホッと一息つくことができる。

生ビールもあるが瓶にしてグラスを合わせた相方は
この店が気に入った様子、笑みをもらしている。
そうだヨ、ここへ連れて来て不平不満をこぼされちゃ、
もう連れ込む店がなくなろうというものだ。

突き出しは白く半透明の煮こごり。
煮崩れた白身魚の小片が散っていて
舌に乗せてはみたものの、何のサカナだか判らない。
本日の品書きの刺身にソイとアイナメがあったから
そのどちらかであろうヨ。

いの一番に名代の鶏もつ煮込みをお願い。
コレをぜひとも食べさせてやりたかった。
珍しい鶏の脾臓まで混入している。
目肝(めぎも)、または小豆(あずき)と呼ばれる小粒の臓物だ。
下町の酒場のもつ煮込みは3~400円がいいところ。
それが800円もするんだから、旨くなければ誰も頼まん。

案の定、ツレは心から歓んでくれた。
真夏の煮込みを堪能してくれた。
だろっ? 持つべきものは友だちだろっ?
とは訊かなかった、あまりに恩着せがましいからネ。

菊正の上燗に移行する。
真夏の煮込みに真夏の燗酒もよかろうもん。
一緒に頼んだアイナメ刺しはサッと熱が通されてタタキ風。
真鯛や鰹もそうだが、皮目を残すことによって
旨みが増進するサカナはこの世に少なくないのだ。

穴子と迷った末に天ぷらの最終決定権を渡すと、
相方が選んだのは稚鮎であった。
この時期、稚鮎の産地は十中八九、琵琶湖ということになる。
ただし、養殖じゃないからサイズは中小さまざま。
中にはデカすぎて頭や背骨が歯に当たるのまででる始末だ。
ごく小さい上物は高級天ぷら店に回ってしまう。
まあ、人間様の世界も幼稚園児だってえのに
体重30キロ超えなんて大物も混じってるから仕方がないか。

「赤津加」
 東京都千代田区外神田1-10-2
 03-3251-2585