ランチに焼肉は何年ぶりだろう。
見当もつかぬままに愛宕山へ向かった。
東京23区内でもっとも高い山である。
とはいっても標高は26mで山というより岡だ。
勾配がかなり急だから丘ではなく岡である。
その違いは何だ! ってか?
何でもなだらかな丸みを帯びたのが丘で
絶壁のように険しいのは岡なんだと―。
岡ザワが言うんだから信用してください。
愛宕山に初めて上ったのは
小学校低学年の頃、60年も昔になる。
急な石段に度肝を抜かれながら
一家4人で山上のNHK放送博物館を訪れた。
その後、ホテルが建つ前の増上寺の広大な境内を経て
JR田町駅前の大衆酒場で親は晩酌、子どもたちは晩めし。
J.C.の酒場好きは親ゆずりなのである。
いつのまにか山のふもとにエレベーターが設置されており、
難なく上って、もとい昇って、懐かしの博物館へ。
こういうところを丹念に見て回ると、
とてつもなく時間が掛かるため、大ざっぱに済ませる。
それでも大河ドラマと朝の連続TV小説のパネルだけは
初回から現在にいたるまで入念に目を通した。
外へ出て神社内にある、池のほとりへ。
ここでGFと缶ビールを飲んだのは40年前。
「崎陽軒」のシウマイをつまみとしたが
何も缶ビールとシウマイ持って上らなくてもネ。
池には緋鯉に真鯉に錦鯉。
人影を見るとエサをねだって全員集合。
エサやり禁止の立て札が無いのは
売店で1袋100円のエサを販売しているからだ。
動物好きにつき、さっそく購入して給餌に勤しむ。
ことのほか面白く、
お替わりお替わりで計3袋も買っちゃったヨ。
さあ帰ろうと男坂の石段上に来て足がすくんだ。
この急勾配は傾斜角40度で東京一、いや、日本一だろう。
大の男が手すりにしがみついて降りるのは恥。
ここは男らしく女坂に迂回しましたとサ、タハッ!
しっかし、三代将軍・家光ってのはマトモじゃないネ。
トチ狂ったかのような無理強いに応じて
讃岐高松藩の曲垣平九郎が馬で上り、
山上に咲く梅の小枝を手折って降りたという故事は
にわかに信じ難いものがある。
上りも怖いが下りはすさまじく怖ろしいんだ。
若い頃は高所などまったく苦にせずマンハッタンの30階、
それも足元までガラス張りのリビングに暮らしていながら
歳とともに臆病になった自分がいる。
今となってはヒッチコックの大傑作「めまい」で
ジェームス・スチュワート扮する刑事のように
アクロフォービアの気(け)が出てきた。
ヒロイン、キム・ノヴァクの妖艶な美しさには息を飲んだがネ。
ラストシーンとなったサンフランシスコの教会を
訪ねたのはニューヨークに赴任した1987年のことでした。