2020年12月4日金曜日

第2539話 知らぬまに 肉屋転じて 焼肉屋

数えること40年の以前、金融界に身を投じた。

英国系マネーブローキング・ハウスは虎ノ門と神谷町の間、

桜田通り(国道1号線)に面する33森ビルにあった。

街には久保田早紀の「異邦人」が流れていた。

 

ふと懐かしくなって界隈を歩いてみたくなる。

当時、利用した飲食店が残っていたら昼食のつもりだ。

まずムリだろうなァ、どこも残っちゃいまい。

何せ、街のランドマーク的存在だった、

天保10年(1839)創業の「巴町 砂場」ですら

3年前に暖簾をたたんでいる。

 

やはり、なかった、絶滅していた。。

虎ノ門ヒルズはじめ、

大規模な再開発に飲み込まれてしまっている。

やるせない気持ちでメトロ・神谷町駅前に来たとき、

目にとまったのは「バーベキューハウス みどりや」。

ビルの地下だが、かつて1階に精肉店「みどりや」ありき。

 

当時のオフィスの冷蔵庫には缶ビールが冷えており、

相場が閉まると各自、楽しむのが常。

そのときのつまみにちょくちょく

「みどりや」のコロッケをテイク・アウトした。

いや、英国英語ならテイク・アウェイが正しいネ。

 

英人スタッフはコレが大好物。

Umm・・・Nice smell」―彼らの口ぐせだった。

そうでしょうとも、揚げ物はラードに限るからネ。

それにしても無料のビールを備えていたのは

わが人生でいまだにこのオフィスだけだ。

 

メニュー板を見ると、何のこたあない、

バーベキューハウスは焼肉屋で

本日の日替わりランチが国産カルビの焼肉セット。

80g が1000円の120gだと1200円。

姿は変われど、お世話になった店である。

昔の恋人に再会した気分で階段を降りていった。

 

小食のJ.C.80gでお願いする。

お冷やのコップにAsahiのロゴ。

小食だけど小飲ではないから思わず発注に及ぶと

あれれ、何だよぅ! 赤星中瓶と無柄のコップが出てきたヨ。

ハハハ、サッポロビールにアサヒのコップは

さすがにマズいでしょうヨ。

 

レタスサラダがプブラスティックの容器でイヤな予感。

ところがあとはみな磁器で胸をなでおろす。

白菜キムチに多量の鰹節が投入されて違和感はなはだしい。

モヤシのみのナムルは可も不可もなく、

わかめスープは焦点がボケてぼんやり。

 

肝心かなめのカルビはというと、

全8切れ中、1切れだけ暗褐色のロース。

文字通り異色というか、異彩を放っていた。

肉質良しとは言い難いものの、

値段が値段のサービスランチでは致し方ない。

 

会計時、接客のオバちゃんに訊ねると、

ずいぶん前に肉屋から転身した由。

高層ビルの谷間で

いつまでもコロッケなんか揚げてらんない、ってか?

ですよねェ。

 

「バーベキューハウス みどりや」

 東京都港区虎ノ門3-17-9みどり屋ビルB1

 03-3431-2988