2019年1月10日木曜日

第2043話 初春の浅草

今年の初詣は2年前と同じ、向島の白髭神社。
去年は機会を失ったが、ここ数年はずっと詣でてきた。
参拝を済ませ、これも恒例、近くの「志˝まん草餅」を訪れる。
餡入り、餡なし(代わりにきな粉と白みつ付き)が
3個づつ入った詰め合わせを買い求めた。

普段、甘いものはあまり口にしないのに
毎年、これは欠かさない。
いわば、初詣と草餅がセットになっているのだ。
草団子なら葛飾・柴又の帝釈天参道が有名だけれど、
「志˝まん草餅」には遠く及ばない。
寅さんには申しわけないが、J.C.はそう固く信じている。

暖かい陽射しの中、墨堤を歩む。
うららかな陽光とはこのことをいう。
歩行者専用(たぶんチャリンコも)の桜橋で隅田川を渡り、
待乳山聖天のふもとを抜けて浅草へ。

かつては毎日のように出没したエンコも
近頃は足が遠のいている。
外人観光客に駆逐されたカタチだ。
銀座も同様で冷めかけた気持ちはもう、もとに戻らない。

人混みに巻き込まれないよう脇道を通り、
2年ぶりに「三岩」の暖簾をくぐった。
昭和2年開業の昭和の香りと浅草の匂いを併せ持つ、
総合和食の佳店である。

8割方埋まっていた卓にどうにか席を作ってもらい、落着。
さっそく相方とビールのグラスを合わせ、
いつも通りのオーダーを通した。
まぐろぬた、にしん酢、皮付きべったら、穴子天ぷらだ。

ぬたは辛子酢味噌の塩梅がとてもよろしい。
にしん酢はヨソではまず味わえない。
しば漬けをちょこんと添えたべったらは都内随一。
白麹の甘みを活かした一種のたくあんだが
味といい、歯ざわりといい、
東京人には千枚漬けよりすぐきより、これに限るネ。
穴子も実にすばらしい。
浅草の三大天ぷら店、「S」、「A」、「D」を凌駕して余りある。

当方はデンキブラン、相方はレモンサワーに転じ、
かき天ぷらとべったらをお替わりをして
昔懐かしの浅草談議を―。

今は無き、街のシンボルマーク・仁丹塔。
松屋デパート屋上のスカイクルーザー。
宝塚のライバルだったSKDの拠点、国際劇場。
大衆娯楽の殿堂、新世界。
みんなみんな、はるか忘却の彼方である。

飲食店に目を移しても、酒亭「松風」、とんかつ「河金」、
焼きとん「菊水」、洋食「豚八」、挙げ始めたらキリがない。
あの頃の浅草よ帰れ、わが胸に―。

「志˝まん草餅」
 東京都墨田区堤通1-5-9
 03-3611-6831

「三岩」
 東京都台東区浅草1-8-4
 03-3844-8632