2019年1月11日金曜日

第2044話 初春の銀座

浅草同様、さっぱり足を向けなくなった銀座。
せっかくエンコへ行ったのに
ザギンを無視しては片手落ちというものだ。
浅草の翌日、昼下がりの銀座に赴く。
種を明かせば、銀座の街を歩きたかったのではなく、
観逃せない映画があったのだ。

東京メトロ日比谷線・日比谷駅の階段を上がると、
日比谷通りには小旗を振る群衆の姿があった。
もうじき駅伝のランナーたちが戻ってくるんだネ。
帝国ホテルと宝塚劇場の間を抜けて外堀通りへ。
相変わらず銀座の街は大陸勢の襲来に見舞われていた。

訪れたのは能楽堂ビルの地下にあるとんかつ店、
「とん㐂」で目当てはかつ丼定食だ。
ここのかつ丼は秀にして逸。
それも(並)のほうが(特)よりバランスがいい。

カウンターの隅に招かれてすかさず注文。
熱いほうじ茶が供された。
(ビールをお願いします)
言葉は喉元まで出かかったものの、
そのまま飲み込んで沈黙を通す。
映画の途中で小用に立つのはイヤだし、行儀も悪い。

久しぶりの「とん㐂(喜)」のかつ丼。
かつて”私の東京三大かつ丼”は
駒形橋のたもとに移転した日本そば店「吾妻橋やぶ」、
西荻窪の食堂「坂本屋」、そしてここだった。
もっとも「吾妻橋やぶ」はご飯モノの提供をやめたので
今はかつ煮を酒の友とするしか手立てがない。

キッチンをうかがうと、
ガスレンジは大が1つ、小が3つの計4台。
大きいのには天ぷら鍋がかかっている。
これでとんかつやフライを揚げるのだ。
その回りの小レンジに3つの親子鍋が配された。
親子鍋というのは親子丼はもとより、
かつ丼など玉子でとじる丼モノのアタマを作る専用鍋。
眺めていて料理人の手際の良さに感心した。
いや、実に美味く仕上げてゆくもんだネ。

何年ぶりかで相対したかつ丼に恋情を覚える。
右端のかつを1切れつまんでパクリ。
瞬時に鼻腔に抜けるラードの香ばしさ。
舌にまとわりつく甘辛さ。
豚ロース肉の厚みほどよく、脂身すら香り高い。
大根とキャベツの浅漬け、
赤身肉・根菜・豆腐の豚汁にも非の打ち所ナシである。

だが、すべてよかったワケではなかった。
以前と比べてごはんがずいぶん柔らかくなった。
丼つゆが底に溜まってしまうほどで
最近のバカ者、もとい、若者好みのつゆだく状態だ。
こりゃ、あきまへんわ。
総合的に合格点を上げられるものの、
マイ・ベスト3からは転落と相成りました。

「とん㐂(喜)」
 東京都中央区銀座6-5-15
 03-3572-0702