2024年10月31日木曜日

第3657話 5軒の「小倉庵」を制覇 (その1)

南大塚は三業通りの「小倉庵」に
行きつけてからというもの、
他の「小倉庵」が気になって仕方なく、
都内の同名店を虱つぶしと相成った。

南大塚の2軒はすでに紹介したから
今回はまず巣鴨にもあった「小倉庵」。
巣鴨といっても地番は北大塚で
最寄りは都営荒川線・巣鴨新田。
終点三ノ輪橋に向かい、大塚から一つ目だ。

入店は昼めし真っ盛りの12時15分。
待たずに座れたが立て混んでいる。
「小倉庵」は何処へ行ってもビールはキリン。
此処もラガーのみだが仕方なく発注に及ぶ。
たくあんと白菜漬けが付いて来た。

品書きをつぶさに眺めたが何の変哲もない。
たまにはけんちんそばでもと思ったものの、
いや、待て、待て、慣れないことをすると
失敗の確立が跳ね上がる。

思い直して壁の品書きに目を移す。
かつ丼セットや玉子丼セットなど
卓上メニューに無いものが貼り出されている。
もりそばも少な目だと聞いて
ミニ玉子丼セットをお願いした。
めったに頼まないというか
人生たった数回目の玉子丼。

周りは近隣のOL&リーマンに
オジさん&オバちゃん。
年恰好や性別に偏りが見られない。
都内で訪れた「小倉庵」は
大塚三業通り、大塚銀座、東上野に続き、
4軒目になるなか、当店はいたってフツー。
これ以上ないくらいの典型的な町そば屋だ。

セットが運ばれた。
あれれ、さっきつまんだ、
たくあん&白菜漬けがまた来たヨ。
まっ、これは町そばにありがちなこと。
黙って食べりゃ、それで済むことサ。
そばはコシが残ってまずまず。
つゆも特筆に値せずとも水準に達している。

そば湯をいただきながら日本酒の1合瓶に
 "飲指" が動きかけたところをこらえた。
スッと立ち上がり、勘定は1350円。
今どき中瓶500円はずいぶん良心的だこと。

午後の散歩は何処へゆこうかー。
取り合えず巣鴨新田の停車場に赴き、
早稲田行き、三ノ輪橋行き、
先に来た方に乗り込みましょう。

「そば処 小倉庵」
 東京都豊島区北大塚2-23-2
 03-3910-6392

2024年10月30日水曜日

第3656話 山崎豊子と山本薩夫 (その2)

「華麗なる一族」の4日前には
「不毛地帯」(1976 芸苑社)を鑑賞。
二次防・主力戦闘機の選定に絡む、
大手商社と政府との駆け引きは
実話のロッキード事件をほうふつとさせた。

配役は男優陣が、仲代達矢・丹波哲郎・
田宮二郎・山形勲・小沢栄太郎・日下武史。
女優は、八千草薫・秋吉久美子・藤村志保。

そして神保町ブックフェス二日目の日曜日。
今回観た特集の3本目が
「白い巨塔」(1966 大映)。
大学医学部を舞台に医学界の内幕を暴き、
大きな社会的反響を呼んだ。

俳優・田宮二郎の代表作ともなったが
原作者の山崎豊子は当初、
仲代達矢に主役をオファーしたものの、
演劇関連とスケジュールが折り合わず、
田宮にお鉢が回り、彼の大飛躍につながる。

キャストは男優陣が
田村高廣・東野英治郎・滝沢修・加藤嘉・
小沢栄太郎・下條正巳・船越英二。
女優は、小川真由美・藤村志保。
J.C.は真由美の大ファン。
あらためて彼女の魅力に魅了される。

書き遅れたが今回観た3本の映画は
すべて山本薩夫がメガフォンをとった。
とりわけ「白い巨塔」は出世作になり、
政治社会派ドラマの巨匠としての
礎(いしずえ)を築いた。
薩夫を名乗るくらいだから彼は薩摩隼人。
俳優の山本學・圭兄弟の叔父に当たる。

山崎の小説は大阪の商家を舞台とするもの。
大病院や大企業を扱うものが二本柱だが
印象深いのは中国残留孤児を描いた「大地の子」。
NHKのドラマになって日本国中の涙を搾った。
未観の方はTSUTAYAへ直行をおすすめしたい。

特集もあと2日間。
「白い~」と「華麗なる~」を残すばかり。
11月2日より「少年サンデー65周年記念」が
控えているものの、まったく興味ナシ。
9日からは「映画に生きる 田中絹代」が始まる。
こちらは何本か観ることになろう。

さて、終映後、ブックフェスを冷やかす。
冷やかすだけではクソの役にも立たない。
何冊か買っていこうかー。

手にしたのは松本清張の時代小説集、
「彩色江戸切絵図」と「紅刷り江戸噂」。
ともに講談社文庫だった。
晩酌後、ベッドに潜り込んで読み始めたら
面白いのなんのっ!
気がつけば夜が白々と明けておりました。

2024年10月29日火曜日

第3655話 山崎豊子と山本薩夫 (その1)

この土曜日は神保町へ映画を観にー。
最初にシアターへ赴き、チケットを入手。
急がないと整理番号がうしろになるため、
上席を逃すことになるのでネ。

シアターの脇におびただしい数の人々が
3列の長蛇を成していた。
松田優作じゃないが、何じゃこりゃあ!
メインストリートのすずらん通りもスゴい。
行列が何本もあちこちに伸びている。
何百人、いや、千人超えかもしれない。

整理のオジさんに訊ねたらこの光景は
神保町ブックフェスティバルとやらで
サイン本や半額本の大セールだった。
第32回を数え、開催日はこの土・日。

神保町でこんなに大勢の人を見るのは
初めてのことだ。
本が売れなくなって久しいが
この調子なら、まだ大丈夫だ思う。
ほうら、裕次郎も歌い出す。

♪ こわい東京で 
  どんな仕事してるのか
  気にはなったが
  大丈夫かと 訊いただけだ
  それで帰した
  おさな顔もいとしく
  ぬれた眸(め)のそこに
  嘘はない筈だ

  いのちある限り
  通うこころ変わらぬと
  誓い交わした
  大丈夫だと 俺は思う
  それでいいのだ
  遠く消えたあの子の
  白い手袋が
  胸にまた匂う   ♪

  (歌詞:萩原四朗)

「白い手袋」は1958年2月のリリース。
のちに裕次郎の刎頸(ふんけい)の友となる、
長嶋茂雄がジャイアンツにデビューする、
ふた月前のことである。

それはそれとしてただ今、
神保町シアターで開催中の
「小説家・山崎豊子 華麗なる映画たち」。
全5本中、3本を立て続けに観るのだが
この日は「華麗なる一族」(1974 芸苑社)。

阪神銀行頭取に扮する佐分利信がしたい放題。
男優陣はほかに、仲代達矢・田宮二郎・
北大路欣也・目黒祐樹・二谷英明。
女優陣も、京マチ子・月丘夢路・
香川京子・酒井和歌子・大空真弓・
山本陽子・中山麻里と、
今ではは考えられないほどの
豪華なオールスター・キャストである。

=つづく=

2024年10月28日月曜日

第3654話 そのとき 小学五年生 (その2)

この先には荒川が流れる江東区・東砂。
町で人気の「高龍軒」に独り。
店を仕切る三姉妹の長女は厨房で孤軍奮闘。
料理を作るのは彼女一人だけだ。
どちらが次女でどちらが三女か判らんが
二人はフロアを担当する。

ラーメンに大きなももチャーシュー1枚。
あとはシナチク・ナルト・海苔。
昔ながらの中華そばは好みにジャスト。
チャーハンは玉子・ナルト・ネギに
チャーシューがちょっぴり。
てっぺんにグリーンピースが2粒鎮座する。
際立つものとてないにせよ、
心と舌を和ませる懐かしの中華に満足の巻。

帰りがけ、富賀岡八幡宮に参拝。
裏手にかなり立派な富士塚があった。
当宮から勧請された、
深川の富岡八幡のほうが繁栄しているが
南砂町と門前仲町、
地の利の差だけではあるまい。

元八幡通りをちょいと戻り、
丸八通りを右折して北上。
先刻、乗客たちの背中を見送った、
砂町銀座を反対の東側から入る。
こっちは出口と呼ぶのが正しいかもネ。

目当ては手づくりの店「さかい」。
しゅうまい&ぎょうざが名物ながら
好物は肉々しさ皆無のしゅうまい。
ところがどっこい、シャッターが降りている。
貼り紙が1枚。
 八月末で閉店いたしました
 五十六年間永い間ありがとうございました
       店主
ガッビ~ン!
繁盛店がこんなことになるとは!
夢破れて山河あり、障子破れてサンがあり。
空しく砂町銀座をトボトボトボ。

仕方ないからチャーシューメンの旨い、
「永昌園」の店頭でシャーピンを1枚購入。
漢字では飴餅と綴る、
餃子の餡が詰まったおやきは晩酌のつまみ。
”飴”、”餃”、”餡” の三文字が
ゴッチャに入り混じり、ややこしい。

そろそろガス欠症状が出て来た。
当銀座の人気店「銀座ホール」へ。
およそ10年ぶりの訪問である。
生ビールを通すとグラスは
化学の時間のビーカーみたいなカタチ。
ノドを歓ばせるために2杯飲んだ。
お通しの大根煮が好い味付け。

さて、これからは?
横十間川と小名木川が交差する歩行者専用橋、
クローバー橋を渡り、
猿江恩賜公園に往きつきましたとサ。

「高龍軒」
 東京都江東区東砂8-3-9
 03-3646-0651

「永昌園」
 東京都江東区北砂3-36-19
 03-3649-3738

「銀座ホール」
 東京都江東区北砂3-33-20
 03-3644-6354

2024年10月25日金曜日

第3653話 そのとき 小学五年生 (その1)

都営新宿線・西大島駅前から
東陽町行きのバスに乗り込んだ。
此処は隅田川と荒川に挟まれた江東区。
戦前は城東区と呼ばれた。

明治通りを南下してゆく車内は
かなり混み合っていたが
3つ目の北砂三丁目で多くの客が下車。
ほとんどが砂町銀座に吸い込まれてゆく。
都内に〇〇銀座は数あれど、
最大の盛況を誇るのは砂町だからネ。

彼らを見送りながら乗り続け、
南砂三丁目で降りた。
仙気稲荷通りを東に歩く。
以前は仙気稲荷があったが
お稲荷さんはとうに千葉県・谷津へ引っ越した。

真っ直ぐ往くと途中で元八幡通りに変わる。
永井荷風が昭和10年(1935)の中央公論3月号、
「残冬雑記」の「元八まん」に記した如く、
この道筋には関東大震災前、元〆川が流れていた。

元八幡は富賀岡八幡宮のことで
深川の富岡八幡の元宮にあたる。
この先で地番は南砂から東砂に変わった。

本日のターゲットは「高龍軒」。
先代の親父サンを引き継いで
三姉妹が切盛りする町中華である。
待ち人ゼロだが引き戸を引いたら満席。
自分が待ち人1号を仰せつかる。

当店は昭和37年(1962)創業。
奇しくもオカザワ・ファミリー四人が
大田区から江東区に引っ越して来た年で
J.C.は大森第五小学校から
平久小学校へ転校を余儀なくされた。
そのとき小学五年生、紅顔の美少年でした。

「高龍軒」の最寄りはメトロ東西線・南砂町。
わが家は東西線で2駅大手町寄りの木場。
5分ほどで席が空いた。
左手にカウンター、右にはテーブル。
カウンターの一番端、引き戸の目の前に着く。
まずは黒ラベルの大瓶を所望する。

メニューは卓上に置かれ、壁にも貼り出され、
その数、おびただしいものがあるが
目を引くのはセットメニュー。
これを紹介しておきましょう。

=おすすめセット=
① ラーメン・餃子3個・小ライス ¥850
② 野菜炒め・餃子3個・小ライス ¥800
③ タンメン・餃子3個 ¥800
④ ラーメン・小チャーハン ¥900

④ をラーメンの方も
半分にしてもらうよう、お願いした。

=つづく=

2024年10月24日木曜日

第3652話 半々丼を食べて「銭ゲバ」

この日も神保町に出掛けた。
映画の前の腹ごしらえは日本そば「冨多葉」。
創業は大正6年(1917)、百年超えの老舗だ。
この店は夕方には店を閉める。
それはいいけどビールを出さないのがツラい。

もり&ミニ半々丼のセット(1050円)を通す。
半々丼というのはかつ丼と親子丼、
両方食べたい向き用である。
かつ丼のカツは1切れだけだが
親子丼はプリップリの鶏もも肉がたっぷり。

ミニ丼といっても手にずっしり重みが伝わる。
小皿の新香はきゅうり&たくあんが2切れづつ。
池之端の「新ふじ」のそれに瓜二つでビックリ。

特筆すべきはユニークなそばのコシ。
噛み締めるといったん奥歯を跳ね返す。
二度、三度噛んで初めて受け入れられる。
女に例えりゃ最初のデートでは
けして肌を赦さないが二度目、三度目で
ようやくブラのフックを外すタイプだ。
つゆは甘みが勝って奥行きに欠けるが
町場のそば屋の老舗感あふれて
これはこれでよろしい。

シアターの前に「TACO BELL」に寄り、
ドライの生をプラコップで1杯。
タップの手入れも行き届き、
キンキンに冷えており、好きだ。

そうしておいて今日はジョージ秋山の漫画を
原作とする「銭ゲバ」(1970)。
監督は和田嘉訓、主演が唐十郎、
製作は近代放映である。

1970年から ’71年にかけて少年サンデーに
連載されたが「銭ゲバ」どころか
こいつは「殺しゲバ」である。
これでもか、これでもかと人が殺される。

ゲバはドイツ語のゲバルト、
 ”暴力行為”のことである。
当時は学生運動華やかなりし頃。
あちこちの大学構内外で
内ゲバが横行していた。
真っ当な学生には暗黒の時代であった。

この特集は「怪人物!唐十郎の映画」。
「小説家・山崎豊子 華麗なる映画たち」が
並行して同時開催されている。

唐十郎のほうは今日・明日の
「任侠外伝 玄界灘」(唐十郎)と
「セックス猟奇地帯」(中島貞夫)。
その後は「新宿泥棒日記」(大島渚)、
「犯された白衣」(若松孝二)を残すばかり。

確かに唐十郎は怪優なんだが
あまり食指が動かず「銭ゲバ」1本に留め置く。
代わりに山崎豊子は3本観るつもりです。

「冨多葉」
 東京都千代田区神田猿楽町2-2-9
 03-3291-4887

「TACO BELL」
 東京都神田神保町1-8-4
 03-5577-6328

2024年10月23日水曜日

第3651話 スチュワーデスやら 遊女やら (その2)

みんながみんな日替わりランチの
ハンバーグ定食をワシワシかっ込む。
その光景を半ば呆れながら見ていた。
しかも全員、食ったらすぐ帰る。
酒を飲んでるのは、J.C. ひとりきり。

すかさず陽水が歌い出したが
浪花の小姑が五月蠅いので今回も見送る。
えっ? 俺たちが許すからやれ! ってか?
じゃ、カトちゃんじゃないけど、
ちょっとだけよ。

♪ 仲良しこよしは 何だかあやしい
  夕焼け小焼けは それより淋しい
  一人で見るのが はかない夢なら
  二人で見るのは たいくつテレビ
  星屑、夜空は 星屑、ひとりきり ♪

「青空、ひとりきり」は当欄3度目の登場。
よって詳しい説明は見送る。

アサヒ商店街を西に歩き、吉野通りを渡ると
日の出会商店街に通りの名称が代わる。
そのまま直進して吉原大門に到達。
見返り柳を左手に眺めつつ、
五十間道から仲之町通りを経て
吉原神社に通りすがり、一礼してなおも前進。

やって来たのは吉原弁財天奥宮。
弁天池の一部が残り、錦鯉が遊泳している。
赤富士の滝も辛うじて水流を落とす。
関東大震災では遊女を中心に
500人近い人々がこの池で溺死したが
当時は相当大きな池だった。
今じゃ鯉ですら500尾も入り切らない。

千束のソープ街では黒服たちに
さんざっぱら声を掛けられる。
後ろ髪を引かれることもなく、
すべて無視して突っ切った。
観音裏からひさご通りのアーケードを抜け、
ホッピーロードに差し掛かる。

かつてしょっちゅうおジャマした、
牛すじ煮込みの「正ちゃん」をのぞくと
近頃めっきり姿を見せなくなった、
店主の正ちゃんと目が合った。
「よお~っ!」
「おお~っ!」

今は無き店、そして今は亡きママ。
田原町のスナック「B」に
二人とも通い詰めたから旧知の仲なのだ。
彼と会うのは5年ぶりくらいかな?

ママの思い出話に花は咲かなかったが
しばしオッサンたちは彼女を偲んだ。
黒ラベルの大瓶と塩らっきょをいただき、
「また来るネ」
「うん、待ってるヨ」
エンコの街をあとにしたのでした。

「越後屋」
 東京都台東区清川2-1-5
 03-3872-1270

「正ちゃん」
 東京都台東区浅草2-7-13
 03-3841-3673

2024年10月22日火曜日

第3650話 スチュワーデスやら 遊女やら (その1)

日暮里から乗った錦糸町行きバスを
台東区・竜泉で下車。
ソープランドで名高き吉原の隣り町だ。
今日は浅草の北側一帯を歩くつもり。
浅草と違い、インバウンドは皆無。
通行人少なく心穏やかに散歩ができる。

最初に立ち寄ったのは龍光山飛不動尊。
飛不動というくらいだから
空の交通安全に霊験あらたか。
よってパイロットやスチュワーデスが
無事を祈って参拝に訪れる。
だけど彼らの姿を一度も見ていない。

最近はスチュワーデスとは呼ばずCA。
キャビン・アテンダントが主流だ。
でもネ、ひねくれ者のJ.C.は
あえてスチュワーデスと呼びたい。
CA は即物的な感じがして響きが冷たいヨ。

東へ進路を取り、日本堤を抜けて清川へ。
アサヒ商店街の「越後屋」にやって来た。
朝の9時に開店するため、
朝食というか、ブランチ目当てのジモティが
好んで利用している。
12時半で席は8割方埋まっていた。

さっそくドライの大瓶をお願いすると
フロアのオネバさん。
「ありますけど今ランチタイムなんで
 ランチを食べていただければ
 お出しできるんです」
「いいですヨ、オモテにあった、
 ハンバーグを半ライスでー」
本日の日替わりランチはハンバーグ定食。

洋食屋顔負けの立派な膳が運ばれた。
デミグラスたっぷりのハンバーグは
かなりのサイズで脇にキャベツとトマト。
ホッキ貝入りマカロニサラダ(フジッリ)。
たくあん&緑のキューちゃん風。
油揚げ・豆腐・大根の味噌汁。
いや、食べ出があった。
当店名物のホッキ入りサラダが
役割を立派に果たしている。

滞空中、およそ30人の客が
入れ替わり立ち替わり。
驚いたことに全員が本日のランチだ。
他の定食類もあるなか、
こんな光景を見るのは初めて。
献立が変わる別日もこの有様だろうか?

=つづく=

2024年10月21日月曜日

第3649話 世界を賭ける 海の幸

上野のお山のふもとにして不忍池のほとり。
台東区・池之端の行きつけそば屋で
昼飲みランチのあと、御徒町に移動した。
晩酌用つまみの調達である。

「吉池」は当欄でもたびたび紹介済み。
この日も鮮魚売り場へまっしぐらだ。
尾頭を落とされ、ワタを抜かれた、
佐賀県産小肌の絣模様が折り重なっていた。

光り物に目の無いJ.C. 、
看過することなどできやしない。
1枚100円弱の値付けもありがたく、
8枚ゲットしたが今夜には間に合わない。
酢で〆なきゃならないんでネ。

次に目にしたのは生海老各種。
北海道の北海縞海老、北陸の甘海老、
そして度肝を抜かれたのがバナメイ海老だ。
太平洋の東側が原産地で
メキシコからペルーにかけ、
大量に水揚げされる。

比較的ポピュラーな海老につき、
度肝なんて大げさな表現ながら
驚いたのはその産地。
なんとサウジアラビアと来たもんだ。
今夜は生まれて初めて
サウジの食べものを口にすることになる。

あとは本まぐろの刺身。
肉割れが入って見るからに
美味しそうな赤身はカナダ産。
サウジだカナダだと海の幸は世界を賭けめぐる。
ほうら、裕次郎も歌い出した。

♪ セーヌの流れ モンマルトルも
  いつか二人で 来る日の誓い
  せめてオスロの 火祭りに
  踊り明かして 君に書く
  便り切ない 旅の宿

  世界を賭ける 恋なぜ哀し
  泣いて待ってた 羽田の海よ
  愛のカレンダー 消しかねて
  君は遥かな 空の涯(はて)
  呼べどこたえぬ 星あかり ♪
  
   (作詞:大高ひさお)

「世界を賭ける恋」は
同名映画の主題歌で1959年の発売。
その2番と3番だ。
映画の原作は武者小路実篤の「愛と死」。
それはそれとして素敵な晩酌となりました。

「吉池」
 東京都台東区上野3-27-12
 03-3836-0445

2024年10月18日金曜日

第3648話 ♪ 雨がふります 雨がふる ♪ (その2)

きざみわさびに涙した3日後。
またまた「町屋ときわ」へ。
そう、この日も雨だった。

駅から2分も歩けば
京成本線ガード沿いに
「町屋ときわ本店」が暖簾を掲げるが
支店の方は駅直結のため、
集客力に大きな差が出る。

いつものようにドライの大瓶と
先日、中年夫婦のおかげで
存在を知った焼き餃子を発注に及ぶ。
小ぶりでなかなかイケる。
野菜よりも豚挽き肉が主張した。

二人連れの外国人女性が隣りに座った。
ベトナムかミャンマーだろう。
顔がクリソツで明らかに母と娘だ。
どこから来たか訊きたかったが
いきなり見知らぬオッサンに声掛けされたら
せっかくのくつろぎに水を差す。
こんなとき女性の相方がいると都合がいい。
女が絡むと座が和らぐんだ。

母はトマトジュース、娘はジンジャーエール。
酒を飲まないのは当然といえば当然の二人。
何かネギ入り玉子焼きみたいなヤツに
イカゲソバター、ニシン塩焼き、
そして焼きおにぎり。
日本人以上に日本人らしい注文をする。
彼女たちは昨日・今日の来日じゃないネ。

ボーッと見てるだけじゃチコちゃんに叱られる。
大関生貯蔵酒300ml と串カツを追加注文。
串カツは冷酒よりビールとの相性がいいが
餃子を優先した結果がこれである。
うむ、悪くはないネ。

締めはずっと気になってはいたものの、
未食であった鯛茶漬けを所望した。
550円の値付けからして
ポーションが小さいと思われたしネ。

鯛の切り身が胡麻醤油にまみれ、
白飯とだしか緑茶の別添えを想像したが
あにはからんやハナから鯛を載せた白飯に
熱いだしがブッカケられて出て来たヨ。

鯛茶漬けは鯛の刺身をおかずに
飯をそのまま食べるのが J.C. 流。
茶漬けにするのは一番最後にちょっとだけ。
ブッカケ茶漬けも不味くはないんだが
夢はかなく破れた雨の午後でした。

「町屋ときわ」
 東京都荒川区荒川7-50-9
 サンポップ町屋 B1
 03-3809-2335

2024年10月17日木曜日

第3647話 ♪ 雨がふります 雨がふる ♪ (その1)

この日は朝から雨。
よく降るなァ、ジッサイ。

♪ 雨がふります 雨がふる
  遊びにゆきたし 傘はなし
  紅緒の木履(かっこ)も
  緒が切れた   ♪
   (作詞:北原白秋)

唱歌「雨」は大正8年(1919)の発表。

わが家に傘はあるけど遊び歩きたくない。
雨の日は日比谷・銀座・新橋・北千住・
町屋あたりが定番なんだが今日は町屋へ。
大衆食堂にして大衆酒場の「町屋ときわ」は
メトロ千代田線・町屋駅直結。
サンポップの地下だから雨に当たらずに済む。
降りの強いときは殆ど此処が指定席である。

雨の日は空いてるハズなのに
最近は雨でも数人並ぶようになった。
3名のあとに続き、3分ほど待った。
靴を脱ぎ、入れ込みの小上りにー。
10人掛けの片隅に陣を構えた。

品書きがべらぼうに多いため、
厨房には相当数が配置されるが
フロアはかなり人手不足。
積極的に声掛けしないと放っておかれる。
もっとも注文が済めば料理の出はスムース。
ドライの大瓶と奈良漬、
本まぐろ刺しミニ盛りを通した。

隣りに中年夫婦が座った。
酒は飲まずに二人とも定食と焼き餃子。
焼き餃子なんてあったのかー。
見れば6カンの小ぶりが旨そうだ。

当方は清酒・大関ときざみわさびを追加。
わさびの茎を刻み込んだものだが
とてつもなく辛い。
目も舌も飛び出すかと思われた。

舌を刺激する辛味はインドカレーの
カシミールあたりが断トツながら
鼻にツ~ンと来るタイプは
これが人生ホッテストであった。

いやマイッたな。
食べ切れないどころか半分残したヨ。
世の中にはまだまだ未知の
恐るべき代物が潜んでいるのです。

=つづく=

2024年10月16日水曜日

第3646話 「ときわ」の流れに「さくら」咲く

前話で「動坂ときわ」を紹介したが
都内に「ときわ食堂」は数多ある。
その中で最大の繁盛店は
お婆ちゃんの原宿こと、
巣鴨とげ抜き地蔵通りの「巣鴨ときわ食堂」。
地元豊島区を中心に何店も展開する。

その「ときわ食堂」から暖簾分けしたのが
道灌山下の「さくら食堂」。
ベトナム人だか、ミャンマー人だか、
巣鴨で修業した若者二人で開いたと聞くが
詳しいことは知らない。

「ときわ」の売り物、ハーフポーションが
無いのは残念だが「さくら」の長所は
13~18時までのハッピーアワー。
ドライ中瓶が590円 → 490円といった塩梅で
呑み助にはとてもありがたい。

近所だから何度か訪れている。
この日もハッピー狙いで13時過ぎに入店。
「ときわ」には無いメニュー、
ホルモン炒めを中瓶とともに発注した。

エッ? これがホルモン炒めかい?
どう見てももつ煮込み炒めだろ!
煮込んだ豚モツにコンニャクたっぷり。
あとはニラ・にんじん・白菜・キクラゲ。
見た目もドス黒くて気色悪い。

日本人の発想から遠くかけ離れている。
あ~あ、やっちまっただヨ。
渋々つまんだものの、
味イマイチにして食感もよくない。
これなら煮込みのままでいいじゃん。
何だってイジクり壊すんだい。

気を取り直し、白鶴の冷酒をー。
Zooとも・白鶴の白い顔を思い出し出し、
グラスを口元に運んだ。
周りを見渡すと食事客ばかりで
飲んでる客はほとんどいない。

そうだヨ、此処は文京区・千駄木三丁目。
台東区・谷中、荒川区・西日暮里、
北区・田端との区界(くざかい)だが
レッキとした文京区はまたの名を文教区。
昼間から酒を飲む習慣などないんだ。

つくづく思い知ったが、ちと待てヨ。
同じ文京区で前話の「動坂ときわ」じゃ、
みなさん揃って飲んでるな。
この違いはいったい、
どこから来るのでしょう? 不思議!

「さくら食堂」
 東京都文京区千駄木3-50-15
 03-5809-0953

2024年10月15日火曜日

第3645話 朝飯の敵を 昼飲みで討つ

この日の朝食は珍しく和食。
献立は、焼きたらこ・梅干し・
白菜浅漬け・かぶの味噌汁。
チンめしは階下のローソンで買った、
120g 入り小パックだ。

鼻歌混じりで調理に取り掛かった。
♪ 雪どけ間近の 北の空に向かい ♪
ってネ。

ところがここで大失敗。
ちょい焼きのつもりだったのに
うっかりたらこを焼き過ぎた。
加えていただき物の味噌が
まったく舌に合わず、味噌汁も失敗。
朝っぱらからやっちまったヨ。

今にも降り出しそうな空模様。
ともあれ昼めしを食べに出た。
最寄りのバス停は千駄木三丁目。
浅草寿町行き、早稲田行きの2路線が走る。

行く先を決めないこと多く、
そんなときは先に来た方に乗り込む。
麻雀で言う両面(リャンメン)待ちだ。
ちなみに反対方向はそれぞれ、
池袋東口行きと上野松坂屋行きである。

早稲田行きが来た。
あまり遠くに行きたくないため、
3つ目の本駒込四丁目で降りる。
くぐった暖簾は「食事処 ときわ」。
通称「動坂ときわ食堂」だ。

ドライの大瓶をもらい、壁の品書きを眺める。
まずは、山形名物の ”だしやっこ” 。
ナスやキュウリを細かく刻んだ塩味が
醤油と生姜の一般的なものと
ひと味違って舌を歓ばせてくれる。

今朝やっちまった焼きたらこに目が止まった。
生もあって、生は350円、焼きは400円。
ハハハ、ガス代が50円ってか?
生を通すと大根あろしを添えて来た。
ありがたし。

当店は味噌汁のラインナップがすさまじい。
あさり・玉ねぎ・わかめ・にら玉・
なめこ・豚汁が 250円均一と来たもんだ。
よおっし、あさり汁をいったろう。

うわっ! 通常の2~3倍はあるヨ。
おかげで腹がタッブン、たっぷん。
だけども、たらこと味噌汁には感謝したい。
朝飯の敵(かたき)を昼飲みで
しっかり討ち取ったワケでした。

「食事処 ときわ(動坂ときわ食堂)」
 東京都文京区本駒込4-37-5
 03-3821-7420

2024年10月14日月曜日

第3644話 板橋に 暖簾掲げて 96年

都営三田線・本蓮沼と板橋本町の中間辺り。
中山道の1本東を走る道筋からちょっと
折れたところにあけぼの商店会なる、
短い商店街を見つけた。

そこに立派な店構えの日本そば屋あり。
さびれた商店街にあって
「田中屋」だけがヤケに目立つ。
店頭の貼り紙の花芽わさびせいろに惹かれた。
この店のそばはかなりのものに相違ない。

われわれクラスともなると
店を見ただけで味まで判るのだ。
ん? われわれクラスって何だ! ってか?
あいや失礼! 上から目線でごめんなさい。
まっ、言葉のアヤにござんす。
機嫌を直され、先をお読み下され。

帰宅後、調べたら店は昭和3年創業。
実に96年の歴史を刻んでいる。
別日(べつび)に訪れた。
狙いはくだんの花芽わさびせいろだ。

花芽わさびせいろ とり天付き(1200円)
卓上の写真を見たら
花わさびの醤油漬けが小皿にー。
てっきり冷たいつゆに花わさびが
散っているものと思ったから拍子抜け。
期待を外されてスルーした。
品書きを手に取り、仕切り直しだ。

ふ~む、もりとざるはつゆが違うんだネ。
ざるつゆはより濃くなるようだ。
そばに海苔は嫌いだからざるは次回、
海苔抜きで試してみよう。
いつになるのか判らんけどネ。

ドライ中瓶とミニかつ丼セットを通し、
お手元の箸袋に目をやった。

きそば 天どん 親子丼
清水町曙通り 田中屋

”どん” の字の違いの意味が
不明ながら、とにかくそうあった。

そばはコシの強い細打ちで上々。
つゆも池之端の行きつけほど
甘さがなくとも似たタイプで好印象。
うん、このレベルなら再訪も
そう遠いことではなかろう。

食後の散歩。
中山道を横断した。
清水稲荷神社は清水町ではなく、
通りの反対側の宮本町にあった。
一礼して手を合わせました。

「そば処 田中屋」
 東京都板橋区清水町50-15
 03-3961-0261

2024年10月11日金曜日

第3643話 上海生まれの ニューめしとも

この夕べは銀座コリドー街のイタリアン。
相方は飛鳥山の行きつけ中華、
「豫園飯店」の看板娘ならぬ看板オネバ、
上海生まれの S蘭である。

帝国ホテルのロビーで待ち合わせ、
小雨がパラつく中を相合傘で向かった。
ディック・ミネと橋幸夫の歌声が
混じって聴こえたが今日はやめとく。
ん? 気になるじゃんかァ! ってか?
「夜霧のブルース」、
「雨の中の二人」の2曲ざんす。

「アンジェロ」は老舗レストラン、
「SNAPPER & GROUPER」と同じビルの
地下だが入口は別で裏口みたいな位置だ。
ちょいと急な階段を注意を払って降りた。

実は前日も此処へ来たんだ。
テッレ・デル・バローロ ’17を
抜栓してもらい、テイスティングを済ませ、
デキャンタージュまでお願いしてある。
バローロは開くまで時間を要するのでネ。

相方はほとんど飲めない。
クリスマスと正月にそれぞれ
赤ワインを1杯飲むだけだと云う。
冷たい飲みものは欲しくないらしく、
いきなりバローロを注いでやった。
当方はドライの生、グラスをカチン。

注文はすべてQR コードからで
苦手なんだよなァ、コレ。
仕方ないから額を寄せ合い、
協力しながらなんとかクリアした。

ブッラータチーズと
セミドライトマトのカプレーゼ。
アヴォカドと海の幸のサラダ。
スパゲッティーニ・カチョ・エ・ペペ。
注文はこの3皿だけ。
互いにあまり食べるほうじゃないんでネ。

カチョ・エ・ペペはチーズ&ペッパーの意。
パルミジャーノとペコリーノに
黒胡椒だけのシンプルなパスタだ。
当店の一番人気らしい。
料理はみな水準を超えている。

いやはやよくしゃべった。
生い立ちや家族についてー。
聞いているうち、上海に行きたくなった。
ディック・ミネの「上海ブルース」が
聴こえてきたが、これもやめとく。

S蘭は頑張り、ワインを2杯飲んだ。
頬がほんのり紅く染まっている。
めしともをのみともに育てよう。
ふと、思ったことでした。

「アンジェロ」
 東京都中央区銀座7-2-20
 パシフィックギンザビル B1
 03-5568-5551

2024年10月10日木曜日

第3642話 「点と線」の 帰りに買った「点と線」

新丸ビルの「ポワンエリーニュ」から
隣りの丸ビルに移動してTSUTAYAへ。
購入したのは前にも読んだ、
「点と線」(新潮文庫)だ。

あれは中学三年の修学旅行。
新幹線じゃなかったと思うが
特急だか急行だかの列車名は忘れた。
東京駅を出発してすぐに読み始め、
京都着のちょい前に読了した。

文芸評論家・平野謙が解説に書いている。
この小説にはキズがあるとー。
4分の間に犯人は二人の仲居を伴って
13番フォームに立たねばならず、
さらには一組の男女を15番フォームに
立たせねばならない。
非常に困難で、それがキズだと仰る。

J.C.思うに、女のことだから
「ちょっと私、おトイレ!」
なんてなったらすべてがパーだ。
さらに国鉄のダイヤは正確といっても
多少のズレだって考えられるだろう。
すべてが最初に4分間ありきで
ストーリーが進み、あちこちムリが生じて
キズだらけなのである。

何もわざわざ北九州までガイシャを
連れて行かなくともいいもんだが
旅行雑誌「旅」の連載小説だから
清張センセがサービス精神を発揮するのも
当然の成り行きなんだろう。

犯行現場は北九州・香椎の海岸。
心中に見せかけた男女の遺体が横たわる。
実は J.C.、この現場に立ってみたかった。
よって博多旅行の際、行ってみた。
二組の男女よろしくJR香椎駅から
西鉄香椎駅を経て海岸へ歩いた。

ところがどっこい、どこまで行っても
海岸にたどり着かないんだ。
今世紀初めだったから四半世紀も昔だが
すでに埋め立てが進んでいた。
’57年発刊の原作にもこうある。

西鉄香椎駅で降りて、海岸の現場までは、
歩いて十分ばかりである。
駅からは寂しい家なみがしばらく両方につづくが、
すぐに切れて松林となり、
それもなくなってやがて、
石ころの多い広い海岸となった。
この辺は埋立地なのである。

何てこったい!
心にシラケ鳥を飛ばせたまま博多に戻り、
屋台のヤケ酒をあおったのでした。

2024年10月9日水曜日

第3641話 「点と線」で飲み放題 (その2)

東京駅正面の新丸ビル。
その地下の「ポワンエリーニュ」に独り。
周りは女子ばっかりだ。
アッシ・パルマンティエと5種のパン。
あとは冷たいゴボウのポタージュに
にんじん&サニーレタスのサラダ。

飲みものはイタリアの生ビール。
モレッティよりスッキリしているため、
気に入りの銘柄、ペローニである。
300ccくらいのグラスで来たから
立て続けに2杯、さらにもう1杯。

食事が中盤に差し掛かる頃、
グラスの赤ワインを1杯所望した。
うむ、これはボルドー系だな。
好みじゃないが、まずまずの味わいだ。

赤を飲み干し、食事も終えて
ボトルの並ぶ棚を見上げた。
ん? サザンカンフォートか?
最後に飲んだのはいつだったかな?
NY時代だから少なくとも26年は経つ。

”南部の歓び” を意味するこのリキュールは
ルイジアナ州ニューオリンズ生まれ。
バーボンウイスキーにフルーツと
ハーブを混入して製造される。
うむ、懐かしさがノドを滑り落ちてゆく。

次はサザンカンフォートの隣りに
並んでいたドランブイ。
かつて行きつけた銀座のバー、
今は無き「A」でときどき飲んだ。
スコッチと合わせたカクテル、
ラスティ・ネール(錆びた釘)が好きだった。

ドランブイはモルト・ウイスキーに
蜂蜜・ハーブ・スパイスを加えて造られるが
蜂蜜はヒース(エリカ)の花から
採られたものに限られる。
ほうら、西田佐知子が歌い出した。

♪ 青い海を見つめて 伊豆の山かげに
  エリカの花は 咲くという
  別れたひとの ふるさとを
  たずねてひとり 旅をゆく
  エリカ エリカの花の咲く村に
  行けばもいちど 逢えるかと・・ ♪
   (作詞:水木かおる)

「エリカの花散るとき」は
1963年のリリース。
西田佐知子は好きな歌手で
彼女の歌唱力をワンランク落とすと、
いしだあゆみになるが、あゆみも好きだ。
二人の鼻にかかった歌声が
耳に快感、心に温もりをもたらすのです。

「ポワンエリーニュ」
 東京都千代田区丸の内1-5-1 新丸ビルB1
 03-5222-7005

2024年10月8日火曜日

第3640話 「点と線」で飲み放題 (その1)

20年以上も前のこと。
丸ビルが建て替えられた際に
館内のレストラン全50軒を掲載した、
「J.C.オカザワの丸ビルを食べる」を
上梓したはいいけれど、
それから滅多に訪れなくなった。
産みっ放しで育児を放棄する、
ダメな母親さながらである。

丸ビルのすぐ隣りに
やはり再建された新丸ビルは
さらに無沙汰が重なって
まだ二度ほどしか足を踏み入れていない。

ところが此処に佳い店を見つけた。
「ポワンエリーニュ」は
ポワン・エ・リーニュ。
仏語で「点と線」を意味する。
実はこの店名にピンと来たのだ。

新丸ビルのテナントだから
それなりの企業の経営だと思われる。
間違いなくゴッドファーザー(名付け親)は
松本清張の「点と線」になぞらえているハズ。
前話で述べたように「点と線」の舞台は
新丸ビルの正面、東京駅だからネ。

見たところ店舗は普通のブーランジェリー。
奥にイート・イン・スペースが潜んで
そこそこの席数がある。
入店したのは13時過ぎで14時までは
ランチメニューのみの提供とのこと。

飲み放題+一品料理のつもりだったが
飲めりゃ不満はございやせん。
そう、当店の魅力はこの飲み放題。
メニューに記載されたビヴァレージは
2500円で何杯でも飲めちゃうのだ。

択んだランチはアッシ・パルマンティエ。
牛肉のラグーとマッシュポテトの
チーズグラタンで、わりと好きな料理だ。

パン屋だけに5種のパンが供された。
バター代わりのディップ類がまたスゴい。
少しづつだが6種類も出て来たヨ。
ものはついで、紹介しましょう。

スペイン産オリーブオイル&ゲランド塩。
カナダ産メープルシロップ。
マスカルポーネ&ドライフルーツ。
こだわり玉子のタルタル。
モデナ産バルサミコ酢。
鎌倉ロミユニさんのキーウィージャム。

普段はあまり使わないんだが
せっかくだからキレイに平らげた。

=つづく=

2024年10月7日月曜日

第3639話 メカジキ食べて 「点と線」

神保町の「Angolo」再々訪。
いつものように此度もプリ・シアター。
シラスのスパゲッティが目当てだったが
今日はメニューから外れており、
代わりにメカジキ&トレヴィスをー。
これもシラスと同じ白ワイン風味だ。

ビールはイタリアのモレッティ。
2本目は一番搾りにして飲み比べると
ん? んん? 一番のほうが旨いな。
よって3本目も一番搾り。

ダイスにカットされたメカジキが好い。
トレヴィス(正しくはラディッキオ)に加え、
生トマト、イタリアンパセリ、
そしてケッパーがあしらわれている。

前回と同じ米国人らしきアンちゃんが
この日も向かいに座った。
彼は常連だったんだ。
パスタを大盛りにしていたが
パンのお替わりはなかった。

会計時、店主と言葉を交わす。
マダムと倅(せがれ)は見立てた通りながら
接客の女性は嫁さんじゃなかった。
店主夫妻の長女で倅のオネエさんだった。

さて、本日の映画は
松本清張原作「点と線」(1958)。
監督は小林恒夫で東映の製作。
キャストは、南廣・山形勲・加藤嘉に
紅一点の高峰三枝子。
観るのはこれが3回目だと思う。

ほかにも花沢徳衛・志村喬・三島雅夫・
堀雄二・清村耕次など芸達者が揃うなか、
映画の主役は紛れもなく
 Tokyo Central Station。
東京駅のプラットフォーム、13~15番だ。

世に広く知られているから
今更、ネタばれもないもんだが
フォームとフォームの間を
さえぎる電車がまったくなく、
13番から15番を見渡せるのは1日のうち
たった4分間だけという、嘘みたいな事実。
よくもこんなことに気づいたものだ。

この手の映画が、しかも昭和33年の製作で
カラー(天然色)作品はかなり珍しい。
東映の力の入れようが判る。
出来映えに何度も首を捻ったけれど
まあ、合格点を上げようかな?

「クッチーナ イタリアーナ アンゴロ」
 東京都千代田区神保町1-42
 03-3295-9189

2024年10月4日金曜日

第3638話 サクラも満開 サカナも満開

またまた神保町へ映画を観にー。
「桜の森の満開の下」(1975 )は
芸苑社製作で監督が篠田正浩。
ヒロインは妻君の岩下志麻。
原作が坂口安吾である。

いやはやワケの判らん映画だった。
篠田の作品はずいぶん観てるが
胃の腑にストンと落ちたのは1本もない。
桜の森の満開の下で
志麻の美しさだけが目に焼きつく。
よって映画のハナシはこれでおしまい。

話題を映画の前のランチに移そう。
神保町交差点近くの「Angolo」は
先日紹介したときに
約束した通り再訪した。
今回はパスタ&メインのBコースをー。

アンガス牛スネ肉煮込みのスパゲッティと
鮮魚のソテー マリナーラソースを択んだ。
サラダ&パンはすかさずサーヴされたが
コースだと時間が掛かり、パスタを待つ間に
早くも一番搾り小瓶をお替わり。

すると接客のお嫁さん。
「お待たせして申し訳ございません」
云いながらモルタデッラとソフトサラミの
小皿をスッと置いてくれた。
やさしい気配りに思わずニッコリ。

牛スネは硬かったがタップリでまずまず。
うれしかったのはマダムが説明してくれた、
鮮魚ソテーの盛合わせだ。
「これが太刀魚、これは赤ハタ、
 こっちが真鯛で、最後が赤ガレイ」
”サカナが満開” の花盛りであった。
このあとで ”サクラの満開" を観たわけだ。

相変わらず声のデカい店主が八面六臂。
斜め向かいに座った米国人らしき、
アンちゃんがパンのお替わりを願い出ると
「お替わり? 100円貰う! OK?」
その勢いにアンちゃんビビッて
ただうなずくばかりなり。
ハハ、どっちがアメリカ人か判らんな。

小瓶をもう1本もらって外を眺める。
入口に最も近い1番テーブルは
客の出入りがせわしないが
小窓から外が見える特等席でもある。
歩道を行き交う人、車道を走るクルマ。
ほうら甲斐バンドが歌い出す。

♪ 走る車の 泥にたたかれ
  見上げたとき 街が泣いてた ♪

「裏切りの街角」は1975年のリリースだ。

「クッチーナ イタリアーナ アンゴロ」
 東京都千代田区神保町1-42
 03-3295-9189

2024年10月3日木曜日

第3637話 昔の名前で出てました

日暮里から亀戸行きのバスに乗って
東向島広小路で下車。
向島百花園の一つ先だ。
水戸街道を南へ歩く。
御堂筋を南に歩いた欧陽菲菲みたいにネ。

行き着いたのは「洋食あきら」。
老夫婦二人きりの切り盛りである。
歴史を感じさせる店内で
壁のメニューを見上げた。

ドライの中瓶を飲みながら
エスカロップとカニコロッケの盛合わせをー。
「ハイ、13番ですネ?」ーマダムの応答。
ホントだ、料理にはみな番号がふられている。
先客はカップル1組に
ママともたちの子連れ5人組。

エスカロップは北海道・根室のご当地名物。
あまり知られてないんじゃないかな?
何でも根室の洋食屋「モンブラン」が
’60年代に売り始めたとかー。
いわゆる肉の薄切りのことである。
と言っても生姜焼きみたいに薄くはなく
ポークソテーくらいの厚さがある。

語源はイタリア語のスカロッピーネだろう。
北イタリアの人々の大好物は間違いなく
仔牛のスカロッピーネ。
東京ではめったに
お目に掛からない仔牛だけどネ。

調ったプレートには
ソテーではなくパン粉を付けて揚げたカツ。
う~む、好いじゃないの。
カニコロもカニカニしさにあふれた逸品。
付合せは繊キャベ&ポテサラ。
豆腐の味噌汁にライスはやや少なめ。
思いっきり満足した。

2100円の会計時、マダムに訊いてみた。
「お店の名前のあきらサンって
 旦那サンのお名前ですか?」 
「ええ、そうなんです」
「だから小林旭に似てるんですネ」

すると店主が厨房から顔を出し、
「いや、いや、ウヒャヒャヒャ!」
おやおや、うれしそうに破顔一笑。
こいつは秋口から歓ばせちまったな。

まっ、昔から年寄りをイジクるのは
お手のモンの J.C.だからネ。
ん? オメエだって年寄りだろがっ! 
ってか?
こりゃまたシツレイしました。

とにもかくにも
「洋食あきら」は昔の名前で出てました。

「洋食あきら」
 東京都墨田区向島4-5-7
 03-3625-9481

2024年10月2日水曜日

第3636話 昔のパン屋で買ってます (その2)

2軒目は入谷の「スギウラベーカリー」
店員のオネバさんによれば、
戦前は四谷にあったが戦災で焼け出され、
いったん閉じて戦後まもなく当地で復活。

調理パン・・・コロッケパン
菓子パン・・・甘食

バーガーみたいな形のコロッケパンは
素朴なコロッケが魅力。
挽き肉なんぞほとんど見当たらず、
あくまでもどこまでも芋々しい。
この潔き、いもいもしさを
いまいましいと思う人は
”昔のパン屋” にゃ向かない人である。

パン業界の絶滅危惧種、
甘食が命を継いでいた。
西表島のヤマネコさながらにー。
この甘食がまた素朴以外の何物でもない。
今の子どもや女性にゃもの足りなかろう。
でもネ、昭和30年代に子どもだった世代は
100円でタイムマシンに乗れてしまうのだ。

此処にも三色パンがあって、
あんこ・クリーム、そしてもう1種は
具こそ入っていないが
レーズンを練り込んだぶどうパン。

3軒目「リバティ」は谷根千の一画、
谷中よみせ通りで創業40年に及ぶ。

調理パン・・・メキシカンオニオン
菓子パン・・・谷中うぐいす 

「どうしてこのパン、メキシカン?」
オバちゃんに訊ねたら
「けっこう辛い味だからネ」

ちょっと何言ってんのかよく判らないが
今まで気に留めなかったことを
意識しながら味わうと、
なるほど辛味が押し寄せてきた。
玉ねぎたっぷりのマヨ・クリーム味。
オニオン好きにはたまらない。

以前は人気を博した分厚いカツサンドが
商品棚から消え失せた。
「最近、カツサンド見ないネ」
「もう5年くらい前にやめちゃったの」
理由は訊かなかったが悩みがあるのだろう。

谷中うぐいすは素敵なネーミング。
いわゆるうぐいす色のあんパンだ。
「グリーンピースだよネ?」
「グリーンビーンズなの」
この人の返事はいつも
何言ってんのか判らない。
それでもほど良い甘さにシットリ食感。
奥様方には大人気である。

ちなみに当店の一番人気は
あふれんばかりのレーズン入りぶどうパン。
みなさん予約して買いに来る。

たまたまベスト3の所在地は
みな台東区になった。
だから好きだヨ、台東区。

あらたなお店を探し続ける日々。
J.C.は今日もまた 
♪ 昔のパン屋で買ってます ♪

「シミズパン」
 東京都台東区東上野6-27-7
 03-3841-1862

「スギウラベーカリー」
 東京都台東区入谷1-1-9
 03-3873-0875

「リバティ」
 東京都台東区谷中3-2-10
 03-3823-0445

2024年10月1日火曜日

第3635話 昔のパン屋で買ってます (その1)

バゲットやクロワッサンなら
大きな街でブーランジェリーを利用するが
日本のパンとなれば、
小さな町に昔からあるパン屋が御用達だ。

この国は外国から取り入れたものに対し、
改良に改良を重ねて別物に仕立て上げる。
欠点だらけの日本人の大きな長所であろう。

てなこって、今話は愛する日本のパン屋。
東京のマイベスト3の紹介です。
その前に歌う映画スター、
小林旭に1曲歌ってもらいましょう。
題して「昔のパン屋で買ってます」。

♪ 上野にいるときゃシミズに立ち寄るの
  入谷じゃスギウラ顔出すの
  谷中リバティ戻ったその日から
  あらたなお店をさがしているわ
  昔のパン屋で買ってます   ♪
  (作詞:J.C.オカザワ)

食事代わりの調理パンに加え、
甘党のために菓子パン、
3軒それぞれのオススメを紹介します。

「シミズパン」は東上野、
かっぱ橋本通り沿いにある。
創業は1950年、J.C.より1歳年上だ。
ちょうど5年前にこの店を見つけたとき、
小躍りしたものである。

調理パン・・・野菜パン
菓子パン・・・三色パン 

野菜パンは野菜のドッグ。
キャベツの繊切りにきゅうりとトマト1切れ。
コールスローとは異なり、
昭和の味付けが舌に懐かしさをもたらす。

他にも昔のパンがズラリと並び、
驚きは大きなメンチカツのバーガーで
”パン屋の食堂” と名付けられていた。
何て名前を付けるんだい!

子どもの頃に棲んでいた、
大田区・大森のパン屋で
三色パンは三ツ島と呼ばれ、
中身は、あんこ・ジャム・クリーム。

子ども心にも1個で3回、
美味しさを味わえる三ツ島は魅力的だった。
当店のは、あんこ・チョコ・あんずジャム。
あんずジャムが珍しい。

=つづく=