2013年9月4日水曜日

第657話 変わらぬ味と変わった味 (その4)

その日は南千住にある都営バスの車庫から
「あしたのジョー」で有名な泪橋の十字路を過ぎ、
山谷・吉原を抜け出て竜泉から根岸の里、いわゆる鶯谷に出た。
駅そばの歩道橋を渡り、上野のお山の北端、上野桜木から
言問通りの善光寺坂を降り、到着したのが根津の谷だ。
われながら炎天下をよく歩いたわ、ジッサイ。

長距離散歩で大汗をかき、ノドはカラッカラのカラ。
さっそくサッポロ黒ラベルの中瓶を一気に流し込み、
ただちにもう1本。
そうして注文したのはレバニラ野菜炒め。
理想的な栄養バランスを誇る一皿は
リポビタンDじゃないが肉体疲労時にピッタリだ。

レバニラのレバーはあらかじめ揚げてある。
ニラは多めに投入されている。
それはいいけれど、味付けがどうもシックリこない。
かつてはこんなに曖昧な味じゃなかったハズだがなァ。
う~ん、ハッキリ言って不満であった。

その日から10日後、お盆の最中に再訪し、ラーメンを所望。
前回のレバニラに疑問符がついたため、チェックに及んだ次第だ。
何度か食べたラーメンなら外さない目論見もあった。
暑さに負けて冷やし中華なんぞに逃げたら再訪の意味がない。
何たって変わらぬ味を確かめるのが目的だからネ。

運ばれたどんぶりは以前と変わらぬ景色だった。
叉焼・鳴門・支那竹・水菜が仲良く並んでいる。
待てヨ、かつて水菜はなかったような気がする。
なぜなら水菜入りのラーメンに高い評価を与えたことがないからだ。
この葉野菜は、例えば油揚げと煮びたしにするなど、
出汁の力を借りない限り、味も素っ気もない駄品に陥る。
ラーメンだってバラまいとけばいいというもんじゃないヨ。

スープをすすって首をひねった。
違うヨ、違う、明らかに違う、こんなんじゃなかった。
コクといおうか、旨みにまったく奥行きが感じられない。
こんな生半可なラーメンが増えたせいで
世の若者は脂ギトギトや魚粉バカスカの邪の道に
走ったのかねェ、だとしたら罪なこった。

麺はどうだろう? 中太ちぢれ麺の見た目は前と一緒。
ところが咬み締め感は微妙に異なった。
10日前のレバニラといい、此度のラーメンといい、
以前と同じ料理人の料理じゃないネ。
ところ変われば品変わる、人が変われば味変わる。

ブレるどころか微動だにしない千駄木の「砺波」。
反して劣化もはなはだしい根津の「オトメ」。
J.C.の推奨店からまた1軒、消えゆく姿を見ることと相成った。

「中華オトメ」
 東京都文京区根津2-14-8
 03-3821-5422