2013年9月5日木曜日

第658話 下北に佳店あり (その1)

ヘアサロンに赴くのは2ヵ月に1回。
その都度、あまり気の染まない渋谷の街に出向く。
もう10年以上も髪を任せている美容師サンにつき、
替えがたいものがあるが、渋谷はどうにも億劫。
年6回だからまだしも、月イチ以上の頻度となれば
途中で挫折していたかもしれない。

その日は髪を理したあと、即刻、下北へ向かった。
エッ、恐山のイタコにでも会いに行ったんか? ってか?
ちゃう、ちゃう、そういうアンさん、東京人じゃございやせんな。
下北は下北でも下北半島じゃなくて
世田谷のヤングタウン・下北沢でやんす。

旧知の友人にして著名なエコノミストのフタちゃんから
「佳い店があるので、ぜひ下北まで足を延ばしてみてくれ」―
かようなお達しがあったのは数ケ月前。
なかなか行く機会を作れなかったけれど、理髪のあとなら好都合。
下北は渋谷から井の頭線で1本。
急行だか快速だか、よう判らんが
その手の電車に飛び乗ればたった一駅なのよネ。

で、行きました。
この街を訪れるのは1年ぶりかなァ。
去年の夏、南足柄のアサヒビール工場を見学後、
町田に寄って食事をし、そこから流れきたのだった。
したがって駅改築後の下北は初めて。
駅の姿は変われども、相変わらず歩きにくいやここは―。
自由が丘とともに歩行者泣かせの街なのだ。

目当ての「山角」は
三軒茶屋方面から北上してくる茶沢通りの路面店。
時間が早いせいか先客はゼロ。
カウンター内はオバちゃん風とオネエちゃん風の女性が
それぞれ一人づつのたたずまいだった。

店内のフロアは二段になっており、奥のほうが一段高い。
したがって奥は天井が低い。
誰もいないのに入口近くに陣取るのもなんだから奥へと進む。
ところが目の前は調理担当のオバちゃん風、ヤケに蒸し暑い。
心なしかエアコンの利きも悪いようだ。

こりゃかなわんわと断りを入れ、
オネエちゃん風の前に移動した。
何も若い方になびいたわけじゃない。
年の差ではなくって温度差でこうなったんだからネ。

さっそくのビールの銘柄はドラフトもボトルもサッポロ黒ラベル。
いいでしょう、黒ラベちゃんなら相手にとって不足ナシ。
最初は中ジョッキをお願いしたのでありました。
頭も小ざっぱりしたことだし、サァ、飲みますゾ!