2026年8月7日金曜日

第4144話 馬場で蘇るニューヨーク (その5)

厨房に走ったオネエはすぐ戻り、
「真ガキでした!」
「それじゃ1個お願いネ」
「ハイ、かしこまりました!」
香草パン粉焼きを
それなりに美味しくいただく。

食後の飲みものはエスプレッソ。
カキに添えられたカットレモンを
皿に残しておいた。
指で潰して皮から滲むエキスを
カップのフチに塗りたくる。
こうすることによって
エスプレッソに新たな息吹を
吹き込むことが出来るのだ。

このスタイルはおそらく、
ニューヨーク発祥だろう。
他の都市では見掛けないし、
イタリア本国でも
お目に掛からなかった。
読者にもぜひおすすめしたい。
エスプレッソの香りが
より際立って来る。

そうしておいて食後酒。
NY時代にさんざお世話になった、
くるみのリキュール、
ノチェッロがある。
味も風味もそっくりの
ヘーゼルナッツのリキュール、
フランジェリコより好んだ。

J.C.は基本的にドルチェや
デセールの類いを取らない。
むか~し、アラン・ドロンが
何かのインタビューに応えて
食後たしなむものは
「カマンベールとウイスキー。
 デセールは嫌いで取らない!」
まさに我が意を得たりだった。

おっと、サンブーカが
あるじゃないか!
アニス風味のリキュールは
ノチェッロの合間を縫って
ときどき賞味した。
久々だからこちらにしよう。

オニイさんのサーヴの十秒後、
今度はポチャオネバが現れた。
白い小皿を手にして J.C.の顔を
遠慮がちにのぞき込みながら・・・
見ると炒ったコーヒー豆が5粒。

(ほお~、ヤるじゃないかー)
心の内で思いつつ、
「判ってるねェ~ッ!」
「ハイ~イッ!」
ポチャ、満面の笑みである。

ニューヨークでは
サンブーカにコーヒー豆は
無くてはならないモノ。
それを彼女は識っていたのだ。

レモンの皮にコーヒー豆。
高田馬場でニューヨークが蘇る。
ささやかなシアワセを感じた。
自分で云うのは
自慢気でイヤなんだが
こんなサービスを理解して
やれる客の存在は
店側も嬉しいものなのだ。

会計は6700円。
「またよろしくお願いします」
オネバがドアまで送ってくれた。
「どうもごちそうさま」
「ありがとうございました!」
まことに気持ちの好い、
プランゾでありました。

=おしまい=

「文流」
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